教室ではなく森の中で保育時間のほとんどを過ごす「森のようちえん」。森が豊かなデンマークで、自然の中で子どもを育みたいとはじまった保育スタイルです。
そんな「森のようちえん」に近い形で、逗子の海を主な活動の場に、言わば「海の保育園」として運営されている認可外保育施設が、「うみのこ」です。「うみのこ」に通う子どもやママパパ、先生たちはどのような幼稚園生活を送っているのでしょうか? 取材しました。
【森のようちえん特集記事一覧】
Part1 デンマーク発の幼児教育「森のようちえん」徹底ガイド 身につく力・保育料等
Part2「森のようちえん」森の中で過ごす1年のカリキュラムと伸びる力
Part3「森のようちえん」の子どもを伸ばす外遊び・公園遊びの方法
Part4 園庭は海「海の保育園」が伸ばす子どもの力とは?(この記事)
逗子の海、山、里を園庭にする保育園「うみのこ」のはじまり

自主保育「うみのようちえん」は週2回10時~13時30分の活動。モットーは「私たちのこどもたち」
「うみのこ」のはじまりは、2010年ごろ。運営母体である一般社団法人「そっか」共同代表の小野寺愛さんらを中心に、逗子海岸で子どもを遊ばせていたママパパが不定期で始めた自主保育「海のようちえん」です。今でも「晴れたら海であそぼう」を合言葉に、毎週1・2回、2~3歳児の親子15組ほどが集まっています。
ここに参加していたママパパから「このまま逗子の自然の中で、小学校までの時間を過ごさせたい」という声が上がったのをきっかけに、2018年には現在「うみのこ」の代表を務める保育士の山ノ井怜生さんを迎え、園舎を整え、2019年4月には保育士3人が定員25人の子どもたちと毎日海や森で遊ぶ認可外保育施設「うみのこ」がスタートしました。

「うみのこ」の園舎。手前には子どもたちが育てる野菜畑
「うみのこ」と並行して、小学生160人が活動する放課後自然遊びの場「黒門とびうおクラブ」、中高生のクラブチーム「アンカーズクラブ」、海で拾った廃材やDIYの道具などを自由に使える「うみの図工室」などの活動もはじまり、現在では、そのすべてが関わり合って、逗子の地縁コミュニティグループ・一般社団法人「そっか」として運営されています。
「海の保育園」の1年で成長する子どもー海が怖くて仕方がない子どもが海が大好きに!

海へ向かう子どもたち。道路の白線を出ない、間を開けない、挨拶をするの3つがルール
「うみのこ」に、1年前に都心からこの地へ移り住んだ5歳の男の子がいます。

逗子海岸で遊ぶ「うみのこ」の子ども
「最初は川沿いの道を歩いて海まで行くのも怖がっていました。海の広さや波の音、足を濡らす水が怖くて仕方がなかったようです。まずは足の指先を海につけることからはじめて、波をジャンプする、もぐるという風に、少しずつできることを積み上げていました。自分のペースで1年かけて、海が大好きに変わっていったんです」(うみのこ代表 / 保育士・山ノ井さん)

海で遊ぶ子どもと保育士の山ノ井さん
海が怖くて仕方なかった男の子も、今ではボードに夢中です。ひとたび海入ると何度もボードから海へ落ちますが、物ともせずに再びまっすぐに沖にいる山ノ井さんに向かってボードを押して向かっていきます。

波をジャンプしながら海へ向かって走る子どもたち
そんな様子を見守りながら、ライフセーバーの資格を持つ保育士の坂本佳凪子さんは、「海に落ちて『怖いから、海はもういい』となったときもありました。でも、こちらから誘わなくても、海の楽しさに惹きつけられるように、また自分で海へ向かっていきました。そうすると、次は前より少し慎重に立ち向かうようになって、今ここまで来ています」と教えてくれました。

大きな石をひっくり返してカニを探す子ども
もちろん海岸へ行っても、海へ入る子どもばかりではありません。浜辺で砂遊びをする子、波打ち際を走り回る子、砂の感触を楽しむ子、磯遊びをする子などさまざま。

泥団子を海に浸けて、波が砂を崩す様子を見る子ども
「浜辺で砂遊びをしてもいい、寝転んでもいい、生き物探しをしてもいい。園庭が海という豊かなフィールドだから、子どもが自分でやりたいことを見つけるまで待ってくれるんです」(前出・山ノ井さん)