【学びの最前線】100年続く最先端アクティブラーニング! シュタイナー教育で伸びる力

・感情の育成の後、その子自身の思考力を育む/14歳~21歳の子どもに大切なこと

「14歳から21歳は『思考力を育成する段階』と考えられます。0~7歳に意志の力、7歳から14歳に感情の豊かさを育んだ後にようやくこの頃から、考えを自分の中から出させたり、みんなで考えて新しい解決策を生み出させたりするいわゆるアクティブラーニング的なディスカッションも多く取り入れられるようになります。ここまで待つのは、考える力の土台となる自分の意や感情への共感や表現力が弱い段階では、どうしても「適当に考える」ということになりがちなためです」

写真(イメージ)/PIXTA(シュタイナー学校ではありません)

「中高生になって自分が何をやりたいかわからずに引きこもる日本の子どもを見ていると、自己決定力の弱さを感じます。『これが嫌だ』はわかっているけれど、自分が何をしたいかわからない、方向性を見いだせない状態ですね。自分が感じたことが正しい、自分の思うように生きることがいい生き方なのだとされる環境の中で、自分の方向性を自ら見いだせるように育っていたら、この子どもたちは引きこもる必要も感じなかったことでしょう。教育のあり方は、とても大きな影響を与えるのです」

シュタイナー教育の先生と生徒の関係

未来:シュタイナー教育の子どもと先生の関係の特徴はどのようなものでしょうか?

「シュタイナー教育の先生は、『すべての子どもは自分よりも優れた能力を携えて生まれてきている可能性があると思い、大人の自分より素晴らしい能力を秘めている』という人間観を基本に持っています。そのため、子どもがもって生まれた素晴らしいものを壊さないように接したり、引き出したりすることを大切にします。シュタイナー学校の先生は、一人ひとりの子どもが何に関心があるのか、どういう気質であるのかを、よくよく見るようにしています。子どものもって生まれたものを生かすも殺すも先生次第なのです」

「もらうことが誇らしい!」シュタイナー学校の通知表とは?

未来:子どもが、自分は尊重されているという自信をもつために、学校の先生が行う評価の仕方も特徴があるのでしょうか?

「シュタイナー教育では、点数で測れる量的評価よりも質的評価を大切にしています。シュタイナー教育の学校は『テストのない学校』と言われることもあるように、テストは重要視されていません。また、担任は原則、8年間持ち上がりで、授業自体が先生と生徒とで共に作り上げていく総合的学習型の学習のため、先生はテストをしなくても、一人ひとりの子どもの学びの現状をよく把握できていることも、テストが重視されていない理由のひとつです」

生徒へのフィードバックに関しても、質的なフィードバックが大切にされています。特に低年齢の子どもへのフィードバックは、教師が子どもの良いところを詩にして伝えるということも行われています。伝えるときにクラスで教師が詩を読み上げて『これは誰のことかな?』と言って、みんなで当てて、お互いに良いところを認め合うということがあるということもよく知られています。こういった伝え方をされると子どもはとてもうれしいですよね。良いところを認めてやる気を引き出すことが重視されるシュタイナー教育らしい評価方法です」

「シュタイナー教育」のカリキュラムの特徴

未来:算数や国語、理科、社会などに芸術教育を取り入れること以外に、シュタイナー教育の特徴的なカリキュラムはありますか?

「100年前から男女の区別のない教育をやるのがシュタイナー教育の特徴です。家庭科は女子だけが、技術は男子だけが行うというようなことはないので、バランスのよい子どもが育ちます。 また、オイリュトミー、にじみ絵などの特徴的な取り組みも多いですね」

【シュタイナー教育の特徴的カリキュラム】
●オイリュトミー
「いいリズム」というギリシャ語からきた科目で、1年生から12年生までの必修科目です。言葉や音楽を身体的に表現する身体的芸術的教育です。頭ではなく体を通じて行うシュタイナー教育の特徴的な科目の1つです。
●にじみ絵
濡らした紙の上に赤、青、黄色の3色の絵具を使って色が混ざり合い、色彩が動いて形を作り出していく様子を目の前で体験できる色彩体験です。
●手仕事
手を使って作り出すことを大切にするシュタイナー教育の中で、羊毛などの天然素材を使って生活に必要で毎日を豊かにするものを実際に作る、例えば編み物のような取り組みです。頭ではなく、手を動かすことで変化を起こすことができる、そして変化させる力こそが、変革する力につながると考えられています。

「シュタイナー教育」で伸びる力ー「生きる力」「創造力」「想像力」

未来:特徴的な取り組みが多いシュタイナー教育ですが、どのような力が伸びると考えられるでしょうか?

「シュタイナー教育で一番身に着くのはやはり『生きる力』でしょう。シュタイナー学校の卒業生を見ていると、自分には力があるという自信にあふれています。自分で考えて自分で決断できる。こういった力があれば、例えば会社がつぶれたら会社を作ればいい、仕事がなくなったら新しい仕事を作ればいいそんな気概を感じさせる人を育みます。それこそが『生きる力』です」

「また、変化の激しい世界の中で、新しいものや良いものを想像(イメージ)して創造する力が重視されています。シュタイナー教育では、100年前から新しいものを作り出す想像力と創造力を育む教育を行い、それを前進させ続けているのです」

今なぜ「シュタイナー教育」が注目されているの?

未来:最近、話題の教育書や雑誌で「シュタイナー教育」の紹介記事を目にすることが増えました。今なぜシュタイナー教育は注目を集めているのでしょうか。

「1つの理由は、2018年度から2022年度にかけて変更される日本での新学習指導要領にあるでしょう。新学習指導要領では、能動性、主体性、自ら伸びる力が弱いとされている今の日本の子どもに、主体的に学び、対話や共同作業をしながら深く考える、いわゆる『アクティブラーニング』、指導要領で言うところの『深くて広い学び』を働きかけていこうとする取り組みを重視しています。これらは100年前から提唱されているシュタイナー教育の教育手法であり、そのことが、今シュタイナー教育が注目されている理由となっていると思います」

「3つのシュタイナー学校卒業生調査の主要結果について」「青山学院大学教育人間科学部紀要」第一号、2010年、1ー16ページ)

「学習指導要領の改訂が目指す方向はとてもよく考えられたものですが、シュタイナー教育と比べると少し不安があるのが、新学習指導要領では幼稚園から高校まで同じ総則が定められている点です。当然ながら幼稚園と高校の子どもとは発達の状況がかなり違うため、同じコンセプトのアクティブラーニングを年齢の違う子どもたちに一様に行うことはなかなか難しいことです。そのため、子どもの発達を7年周期でとらえて質的に子どもへのアプローチを変えて子どもが主体的に学ぶ取り組みを行ってきたシュタイナー教育に注目が集まっているのです

未来:シュタイナー教育を受けた子どもは深くて広い学びができていると考えられているのですね。

「シュタイナー学校は、世界に1,214校(2020年5月の段階での数字です)で、世界の人口から見ると本当に少ないにもかかわらず、すでにノーベル賞受賞(生理学 医学)のトーマス・ズードフ氏や『モモ』の著者でもある児童文学者のミヒャエル・エンデ氏、日本では俳優の斎藤工さんや村上虹郎さんといったその人ならではの思想を持ち周囲と共同して新たな価値を生み出す人たちを輩出しています。また、アメリカ・カナダで大学教授に対して行われた調査で、シュタイナー学校卒業生は、問題解決力イニシアチブ倫理性判断力コミュニケーション力リーダーシップ他者への配慮などで、非常にバランスの良い高い評価を受けているというデータがでています。これらの調査結果もシュタイナー教育を受けた子どもが広くて深い学びができていることを表していると考えていいでしょう」

家庭でできるシュタイナー教育的アプローチ

未来:シュタイナー教育的なアプローチを、どのようにしたら家庭で取り入れることができるかについて読者にアドバイスをお願いします。

温かいまなざしを通して愛をもって接したい0歳~7歳

「家庭でも、発達の段階にった対応を心に留めていただくといいですね。0歳~7歳の『意志』の教育の段階では、子どもは周囲の環境すべてを良いものとしてとらえて『模倣』します。環境には周囲の大人自身ももちろん含まれます。そのため、 大人の意識や感情が悪いものにならないように心がけることがとても大切です。その上で、その子、その子のすべてを受け入れてあげる心持ちで接し、暖かいまなざしや振る舞いを心がけることが大事です。子どもを客観的にではなく『どこかいいところがないかな?』という暖かいまなざしで、見守ってあげましょう」

アタマを使わせるのではなく、何を感じたか? を発言してもらいながらながら見守る7歳~14歳

「7歳から14歳にかけては、子どもの頭に働きかけすぎるのはよくないので、『どう感じた?』と尋ねるような感情のレベルに話しかけ傾聴するコミュニケーションがいいでしょう。『学校で何があったの? 何を習ったの?』ではなく、『感動したことはあった?』何がおもしろかった?』心動かされたことはあった?』などと、尋ねながら、子どもの興味関心を引き出し、関心があるものがあったら、それを伸ばしてあげられる環境を整え、子どもの興味関心を引き出せるようにしてあげるといいですね」

 「14歳~21歳になると 意志、感情、思考の三つに働きかけることができるようになります。とはいえ観察していて、感情の発達が少し弱いなと感じたら、一緒に音楽や演劇を見に行くなど補ってあげるのもいい刺激となります。意志の弱さを感じたら、本人の関心や、興味、やりたいこと、感じていること、好きなこと、嫌いなことなど傾聴してあげると、バランスがとれてきます。 いずれにしても『親のこうなってほしい』を押し付けるのではなく、子どもがその子らしく生きていけるように優しく暖かいまさざしで手助けしてあげることが重要なポイントとなります。頭中心に偏ると、心が冷たくなりやすいので、意志と感情への配慮を忘れないことが、この年齢層では、とりわけ重要となります」

子育てをしていると、わが子よりよくできる子を見て焦ってしまうこともよくあります。そんなときは、シュタイナー教育のように、21歳までじっくり子どもの育ちを見守ることを前提にして関わったり、記事後半の「家庭でできるシュタイナー教育のアプローチ」を取り入れたりすると、焦らず子ども1人ひとりの成長の一瞬一瞬を一緒に喜びながら向き合っていけると感じた取材でした。
「学びの最前線」ではいろいろな教育法を紹介しています。それぞれの教育法のエッセンスが読んでくださるあなたの子育てのとらえ方のヒントになれば幸いです。(大下孝枝)

お話を伺ったのは…今井重孝・青山学院大学名誉教授(専門領域:教育学)
1948年愛知県生まれ。東大教育学部卒業後、同大学院に学び、西ドイツ政府留学生としてボン大学に留学。教育学博士(東京大学)。東京工芸大学講師、助教授、教授、広島大学教授、青山学院大学教授、川口短期大学こども学科教授をへて、現在は青山学院大学名誉教授。専門は、教育学、ホリスティック教育、シュタイナー教育思想。著書に、単著『“シュタイナー”「自由の哲学」入門』(イザラ書房)、シュタイナー著、今井重孝訳『社会問題としての教育問題』(イザラ書房)、共著『未来を開く教育者たちーーシュタイナー・クリシュナムルティ・モンテッソーリ・・・』(コスモス・ライブラリー)、共編『命に根差す日本のシュタイナー教育』(せせらぎ出版)、共著『死生学3 ライフサイクルと死』(東京大学出版会)など。
現在、日本シュタイナー学校協会専門会員。
社会の未来を考えるホリスティック教育研究所を主宰。研究所のフェイスブックでは最新のイベントや講演会情報を発信しています。

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出版社、教材編集を経て2013年に「いこーよ」へ。小学生の女の子2人のママ。大学院、モンテッソーリ教育教師、華道、ダイビング資格有。ライフテーマは幼児教育から小学校、中学校、高校、大学、社会人へとどのように学びをつなげていくか。特に幼児教育から中学受験への連携に日々奮闘中。

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