岸壁幼魚採集家・鈴木香里武さんが語る「好きなことに夢中になっている子どもに本当にかけるべき言葉」とは?

スキシャリスト
「スキシャリスト」とは、“好き”のスペシャリスト。「好き」を大切に育て、それを軸に行動し、向き合い続けながら自分の人生を切り開いている人たちのことです。その歩みには、子どもが「好き」を見つけ、信じ、伸ばしていくヒントが詰まっています。多彩なスキシャリストへのインタビューを通して、お子さんの「好き」と向き合うとき、親御さん自身が一歩踏み出したいときに、そっと背中を押してくれる物語をお届けします。

子どもの「好き」を伸ばせない言葉と本当にかけるべき言葉

鈴木香里武さん

未来:「好き」を広げて仕事につなげている香里武さんから見て、今の子どもが好きなことをずっと続けていくために「こうしたほうがいい」というものはありますか?

前編で「突き抜けてやること」と「周りに師匠を持つこと」というお話をしましたけど、「好きを貫くことを阻害する言葉」がいくつかあって、それをいかに無視していくか、だと思います。僕はそういう言葉を本当に無視してきたのでよかったのですが、いろんな大人の人と話をしていると、いい影響を与えられる一方で、やる気を削がれることも多いのです。

未来:大人自身の何気ない言葉が、ひょっとしたら子どもの成長の足かせになってしまうということですね。

一番言われて腹が立ったのが「まだ若いんだから焦るな」ですね。これを言ってきた大人は絶対信用しないと思いました。高校の頃にスペシャリスト集団を作って大学1年で起業していましたから「今は学生なんだから、学生のうちにしかできない遊びをやりなさい」と両親以外の大人に言われるんですけども。

未来:ご両親がそういうことを言わないのはさすがですね。

極端な例えを言えば「赤ちゃんにとっての1日は、大人の2カ月に相当する」ほど、年齢によって1日の濃度は違いますし、自分に心地いい人生のスピード感は、10代と50代では全然違うと思うんです。もちろん生きた時代も違いますし。そのときの年齢とスピード感について、他人がとやかく言える問題ではないと思うんですよ。

僕は「自分自身が焦っていたら一度止まった方がいい」と思っています。でも「焦る」と「急ぐ」は全然違うものです。焦っているのは、心がついていけていないとき。焦っていなくて自分にとって一番いいペースで急いでいるぶんには、どんどん突っ走った方がいいと思うんですよね。子どもはそういうエネルギーを持っているから。

未来:「まだ若いんだから焦るな」と言われた当時の香里武さんは、「焦っていた」のではなく「心地よいスピードで急いでいた」ということですね。

そう。だから好きなことをやっている子どもが、もしも大人に「若いんだから焦るな」みたいなことを言われたら、それは大いに無視していただきたいと思いますね。

未来:声をかける大人のほうも意識しておきたいです。

子どもの「好き」を妨げる悪魔の言葉のもう一つは「趣味を仕事にしない方がいい」です。僕は正直無視していますが、一理あるともいえます。例えば僕が「魚が好きだ」という思いだけで魚の研究者になったとしたら、どこかでひずみが生じてたと思うんですね。でもそれは、趣味を仕事にしない方がいいということとは違います。本当に好きなことと100%一致することが仕事にできていたらこんなに素敵な事はなくて、生まれてくる作品や仕事も、それ相応にいいものになってくると思うんですよ。

未来:その仕事が本当に自分が好きなことと完全に一致しているかどうかを吟味しないといけないわけですね。

「魚が好き」のような表面的なものではなくて「本当に自分のやりたいことってなんだろう」と考えてみると、今世の中にある普通の職業名では言い表せないことが多いと思います。なので、文章で夢を認識しておくといいと思います。それになるための手段の一つとして、職業名を意識するぐらいな感じでいればいいと思います。今、自分がやっている「岸壁幼魚採集家」は趣味を仕事にしていて、実際ものすごく楽しいですね。

未来:岸壁幼魚採集家というのは、香里武さんが言うまでは世の中になかった職業です。香里武さんがお話されたように、本当に自分がやりたいことを文章で書いておいたことが職業になっているわけですね。

そうです。「趣味を仕事にしない方がいい」と関連していますが、もうひとつあるのが「将来何になりたいの?」です。これもNGかどうか、きわどい質問です。

未来:同じような質問は、メディアとしてもよく聞くことがあります。

みんなが使いやすい、夢を聞くために手っ取り早い言葉なのですが、なぜきわどいかといえば「将来何になりたいの?」の「何」って、職業名でしか答えられないからなんですね。

未来:確かにそうですね。

これが小さいころからすり込まれていくと「夢=職業」になってしまいます。だけど「どういうことがしたいの? 今どんなことに興味があるの?」と聞くと、子どもは夢を生む天才だから、バーって文章で答えてくれます。その気持ちをいかに持ち続けられるかだと思います。だから大人の枠組みを押しつけないで、今やっていることや、何に興味を持っていてどんな活動をしているか、未来にどんな物語があるのかなどを意識させてあげれば、道を定めていけるんじゃないかなと思います。

それから「将来」って言葉も、僕は無視していました。例えば大学を卒業して社会人になったら将来が来るというわけではないですし、明日だって将来ですから。いずれ来るであろう「将来」というタイミングまでやっていることは趣味で、それを過ぎたら仕事になるという、先入観につながってしまうと思います。

そうではなくて本当の未来は、今から全部つながっている一つの大きな物語なんです。今やっていることの延長に未来があるし、今興味を持っているものが形を変えるかもしれないけど、仕事につながるかもしれない。そういう思いを断ち切らないであげてほしいなと、すごく感じています。だから「将来、何になりたいの?」と聞くのは、子どもを枠組みでしばる言葉が二重に入っているわけです。

未来:言っている大人はそこまで意識していないかもしれないですが、気をつけたいですね。

僕の会社の公式サイトには「〇代で××をする」というような人生設計が書いてあります。この文章を全部カギカッコ付きでフワッとさせているのは「常に何になるかわからない状態でいたいから」なんですよ。仮の言葉で表現はしているけれども、しっかりとした目標からの逆算ではなくて、今やっていることから形を変えても全然いいと思う。それはそれまでの積み重ねがあったからこその発展ですね。

未来:「やりたいこと=職業」ではなくて、大きな方向性を言葉で示しつつ、フレキシブルに違う方向に行ってもいいという考え方ですね。

子どもたちは好きなものも絶対何かしらあるし、すごいエネルギーを持っているので、それを有効活用して形にしてあげた方がいい。それがある時パタッと飽きて、全然違うことをやっても全然いいと思うんだけど、その子にとっての好きなものを持っている間は、大人は見守ってあげながらエネルギーをどんどん使わせたほうがいいと思います。

遠回りしたからこそ今の自分がある

鈴木香里武さん

未来:先ほどのお話で言っていた「どういうことをしたいの? どんなことに興味があるの?」を、今の香里武さんに聞いてみたいです。

魚の世界は、じつはおもしろい発見が論文でたくさん出ているんですけど、海洋学の中だけで話題になって終わっているところがあります。普通の人は専門用語だらけの論文なんて読まないので、それをいかに一般の人がわかるところまで引っ張ってくるか、というのが自分でやりたいことです。それ自体は、さかなクンという大先輩がやっていることでもあるのですが、僕はコラボレーションしながら、また別の切り口から魚に触れてなかった人に、魚のおもしろい研究を紹介したいです。

海外だとコーディネーターというか、科学者たちと一般人々をつなげる役割の人が、重宝されてると思うんですけども、日本だとそういう肩書きがあまり表に出てこないんですよね。自分がなりたいのはそういう存在です。いきなり海洋学部に行かなくて、この10年間心理学を学んだりと遠回りしたからこそ、つなぎ役になれる今の自分が存在していると思います。

未来:前編のインタビューに出てきた「いろいろな大人の話を聞く」ことと、今回のお話を合わせてみると「生き様の多様性を知る」ことが、香里武さんの人生においても、子どもたちにとっても重要なことといえそうです。

本当にそうですね。僕自身「岸壁幼魚採集家」という謎の肩書きに至ったことを「いいんだ」と思えたのは、それだけいろんな人生を歩んだ人たちの話が聞けたからです。そうじゃなかったら、本当にもっと視野が狭くなっていたと思うんです。小学生までは「好き」だけで突き進んでよかったものが、中学生くらいになると「自分でやってることって、ただの趣味なのかな」と思ったり「仕事とはまた別なのかな」と揺れ動くと思います。そういう子に「100人いたら100通りの生き方があるんだよ」というのを、単なる言葉ではなく人に会うことでわかるようにしたいです。

学生時代から活動の幅を広げていて順風満帆に見える鈴木香里武さんでしたが、お話を聞いてみると「自分のやりたいこと」を貫き通すのは、やはり簡単な道のりではなかったんだろうなと思います。だからこそ、自分の生き方もひとつの「生き様」として、幼魚や大人たちのさまざまな生き様を子どもたちに見せて、未来を明るく照らしたいという想いがあるのではないでしょうか。今回は鈴木香里武さんのご自宅にお邪魔してお話を聞きましたが、たくさんの水槽の前でお話する香里武さんの姿が本当に生き生きとして素敵でした。今後の香里武さんの活躍にも注目したいと思います!(KAZ)

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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