苦手科目の乗り越え方が人生を切り開く経験に
未来:学校の授業で何か得意科目や苦手科目はありましたか?
理科は好きで得意でした。勉強は全般的に一生懸命やっていて、そんなに成績の悪い方ではなかったのですが、どうしても興味が持てなかったのが歴史でした。とくに日本史は、授業が苦痛でしょうがなかったです。でも僕は「授業では絶対寝ない」というのがポリシーだったので「どうやって日本史の50分間を乗り切ろうかな」と考えることにしたんです。
未来:絶対寝ないとしていた理由は?
僕は勉強が嫌いなんですよ。家に帰ったら工作や魚の世話をしていたいので、家でも一切勉強してないですね。家でテストの勉強はしたくないから、授業の間に全部覚えることにしていました。勉強は授業がメインで、テスト前はちょっと復習するぐらいにしたかったんですよ。
未来:嫌いな日本史の授業は実際、どうやって乗り切ったのですか?
「先生の言うことをノートに全部書こう」と(笑)。当時は両利きだったので、右手に鉛筆、左手にカラーペンを持って、ノートの両ページを使ってバーッと書いていきました。エピソードはガーッと鉛筆で書いて何か大事そうなところをカラーペンで書く。持ち変えるのが面倒くさかったのでそうしていたら、ものすごい量のノートができあがります。
未来:なるほど、先生の話を全部書き起こしていたら、忙しくて寝れないですね(笑)。
日本史では、何年に〇〇の戦いが起きて、その数年後にまた〇〇の戦いが起きる。その間のできごとって、あまり教科書に書いてないんです。それを先生が授業で話してくれていることがわかります。この「間の部分」はまずテストに出ない。でも「間の部分がわかるのが楽しい」ことに気づいたんです。
「〇〇の戦い」「〇〇が×した」などをただ暗記していたら嫌になってしまいますが、その間のストーリーを書いてみたら、歴史で覚えることはそのストーリーなんだとわかるんです。
未来:点と点がつながって線になるように、できごと同士を関連して理解して覚えるというわけですね。
この「1個の長いストーリーさえ覚えておけば全部いける」と気づいて、そしたら一気にテストで点が取れるようになってですね、繋ぎ目を埋めるようになったからこそ、点が線で繋がった。こうしたら楽しくなりましたね。
香里武流「人見知り」の克服法
未来:苦手だと思っていたことが、工夫や努力で楽しいことに変わったというのは、とてもよい経験になりましたね。
苦手といえば、僕は極度の人見知りで同世代の友だちがいなかったんです。でも、周りを見ると、みんなすぐに友達作っている。「これじゃいかんなあ」と思って、無理やり人にアプローチをするようになりました。同年代は苦手なので、相手は大人だったんですけど。
小学生ぐらいのときに、自分で訓練だと思って大人にどんどん声かけていました。さかなクンの「自称」弟子だったから名刺には「こざかなクン」と書いた名刺を自作して、会う人に渡していたら、小学生でも大人から名刺をもらえることがあるんです。それで、連絡して「今度お話聞きたいんですけど」って無理やり話しかけていったら、人とつながることが楽しくなってきちゃって、気づいたらいろんな大人とつながりを持てました。それで「カリブ会」という組織を16歳のときに作り、それが今の仕事のベースになっています。
未来:これも今の人生につながるいい経験ですね。話しかける人は、自分から見て気が合いそうだなという人が多かったですか?
そういうことは、あまり考えなくて、とにかく話しかけていました。そのなかで全然ジャンルの違う方の話を聞くのがすごく楽しいなあと、思い始めたのが中学から高校にかけてですね。
未来:「カリブ会」にいるのは、やはりお魚に関する方なのでしょうか?
カリブ会は今200人ぐらいで、魚関係の人ももちろんいますけど、ミュージシャンや俳優さんなど、関係がない人が多いですね。今、自分が目指していることは「魚の世界の入口を作ること」なんですよ。魚に興味ある人に魚の話をしたら聞いてもらえるのは当たり前で、「まだ興味がない人にいかに魚の世界に入ってきてもらうか」と思ったときに、自分は魚のことしかできないので、例えば「魚とクルマ」、「魚と音楽」など、いろんなジャンルのスペシャリストとコラボレーションして、その世界に興味がある人が入ってきてくれるようにする。そのためにスペシャリスト集団を作りたいと思ったのがカリブ会を作るきっかけだったんですね。なので、ジャンルは、さまざまです。
未来:普通の中学生や高校生って知らない大人への接点があまりないと思うんですけど、どこで声をかけていたんですか?
身近なところに数人は、大人がいるじゃないですか。その大人の向こうには、数百人いるじゃないですか。そう考えると、いくらでも繋がれます。1人から2人を紹介してもらい、その人たちから2人紹介してもらって…と広がっていく感じです。僕は、幼魚が好きで自分の水族館が作りたくてと熱弁をふるっていたら「じゃ、こういう人がいるけど、紹介しようか?」とつながっていきました。きっかけは、親かもしれないし、友達の親でもいいですね。
未来:身近なところから進めていけば、誰でもある程度はつながりが持てそうですね。
高校一年のときの「心の成長期」が、その後の人生の目標に
未来:カリブ会を結成して、魚の世界の入口を作りたいというのは、高校のときに思ったのですか?
そうです。高校一年の時に将来に関する、いろんなことを思いついたんですよ。それまでは、深海の研究者になりたいと思って、海洋学の勉強をしたていたぐらいなので、まだ未来の見え方が一通りしかなかったんですけれども「本当にやりたいことってなんだろう?」って気づけたのが高校1年生のときで。誰しも「心の成長期」というのがあるじゃないですか。体の成長と別に。15歳のときに一気にいろんなことを思いついて。「魚の癒し効果を研究するために心理学を学ぼう」と思ったのもそのとき。カリブ会を作ってコラボレーションをしようと思ったのも、それをゆくゆく会社にしようと思ったのも、夢を応援する企画も15歳のときでした。それに合わせて自分の出で立ちを、金髪とセーラー服に変えたのも、15歳のときでした。
未来:まさに香里武さん自身が幼魚から成魚に変わった、瞬間ですね。
見た目は、黒髪が合わなくなって、黒髪以外のものにしたかった。そのときたまたま見た映画の影響で、こういう感じになったんですけど、それを14年ぐらい続けています。よくテレビなどのメディアを意識した「キャラづくり」と言われるんですけども、そうではなくて一番、自分が自然でいられる姿に変えたんです。それをいまだにこじらせているだけなので(笑)、これが素なんですよね。
未来:これまでの魚好きとして蓄積されていたものが一気に放出された、悟りを開いたというか「鈴木香里武として生きる意味の謎を解いた」感じですね。
ありがとうございます。そこまで、何を積み重ねてきたのかはわからないですけど、それなりに考えていたことの生かし方に気づいたのが高校のときでしたね。
「子どもが好きなことをやりぬける」2つの条件
未来:もしも、今の自分が幼少期の自分にアドバイスできるとしたら?
「信じてやり続けて」と言いたいですね。やっぱり、子どもの頃から信じてはいたんですけど、僕のやろうとしていたことはかなりニッチだったんですよ。同じ魚の趣味でも「釣り」のほうが一般的ですし、魚も幼魚よりはサメのような大きな魚のほうが人気もあるので、ほかの人に魅力をわかってもらいやすいと思います。
こんな小さくてマニアックな種類の幼魚なんてまず見てもらえないわけですよ。「こんなの採ったんだよ! かわいいんだよ!」と言っても振り向いてもらえないことが多かったので、ときどき「これでいいのだろうか?」と思うタイミングがあって。カリブ会にいて、長い付き合いをしている方は、興味を持ってくれた人なんですけども、そうじゃない人は「ふーん」で終わるわけじゃないですか。全然興味を持たれないということが大半なわけなんですよね。
そうすると、幼心にやっぱりガッカリするわけですね。それでも信じて続けていた結果、今はこうして幼魚の本を出せたり、幼魚展ができたりと仕事に繋がっていて。誰もやってなかったぶん幼魚といえばという存在の1人にはなれていると思うので、本当に「そのまま信じて続けて」っていうことは言いたいです。
何か物事を突き詰めている人は、多分みんなそうだと思うんです。それでもあきらめなずに、世の中に合わせて方向を変えないで信じたものを突き進んでいいよと。
未来:まさに「未来へいこーよ」が「ココロのスキル」のひとつとして挙げている「やりぬく力」ですね。香里武さんの場合は、どうしてやりぬくことができたのでしょうか?
僕は、物事をやりぬくために必要な条件が2つあると思っています。ひとつは、もう自分で言うのも恥ずかしいですが「頭がおかしいほどやること」ですね。僕は、まっとうにやっていたつもりなんですけど、傍からみると、結構そう思われていたみたいで(笑)。
未来:好きだからこそ、そこまで突き抜けてできるわけですよね。
漁港で働く漁師さんなどに「もしかして、死んでるんじゃないか?」と思われるくらい、一日中ぴくりとも動かず両手に網を持っているので(笑)。本人はまったく苦にならないんだけど、傍から見たらやっぱり変わった人なんです。岸壁採集は、周りの目を気にしていたらできないし、モテようと思ったらまずこんなことしないですよ(笑)。

鈴木香里武さんが実際に岸壁採集しているときの様子。
そう考ええると周りの目を気にせず、いかに信じて、突き抜けるほどやり続けられるかだと思います。たぶんスポーツ選手なんかも、常識の範囲内での練習をしていたら、たぶん常識の範囲内しか結果がついてこないと思うんです。常識を超えた練習をするから、突き抜けた結果につながるのではないかと。そのレベルだと思うんですよね。何事も「やるんであれば突き抜けるほどやる」のが1つかな。
もう1つの条件としては「見守ってくれる大人の存在」というのは、大事だと思うんですよ。それは親でもいいですし、周りにいる大人でもいいです。自分がやっていることに対して、1人で信じ続けるのは限界があるので「それおもしろいね」と言ってくれたり、ときには厳しい言葉をかけてくれたり。そういう師匠と呼べる存在がいるといいですよね。
僕は、そういうことを言ってくれる人だけカリブ会にお誘いするんですよ。だから僕にとっては、カリブ会に入っている方全員が師匠と呼べる人たちです。自分のやりたいことを、ホントに心からおもしろがってくれて、責任ある言葉を投げかけてくれる大人がいるかどうかがすごく大きいなと思います。そういう人こそ、本当に信頼できると思って。そういう大人が周りにいるかどうかが、やり抜く力を育むための条件のひとつじゃないかなと思っています。
未来:師匠がたくさんいたからこそ、視野も広く持てるようになったんですね。
人見知りを克服することがきっかけで「カリブ会」を作ったおかげで、人生の点と点の間にあるストーリーを知ることができたというのが、すごく自分のためになったなと思うんですね。だから小さなお子さんには、ぜひ積極的にいろんな大人にアプローチして話を聞いて、人生ストーリーのエッセンスを抽出していってほしいですし、周りの大人はそういう機会をどんどん与えてほしいなあと思います。
幼少期からご両親と一緒に漁港の岸壁で幼魚を採集していた香里武さん。「好き」をうまく現在の仕事につなげられたのは、もちろんご両親の存在も大きいのですが、自らの苦手なものを克服することがきっかけになったというのが興味深かったです。幼魚の多様性に魅せられた香里武さんが、人間自身の多様性にも気づき、自分の生き方を肯定している姿が、とても素敵だなと思いました。後編では鈴木香里武さんが海洋学ではなく「心理学」を学んだ理由や、魚たちの生きざまに惚れる理由、子どもの「好き」を阻害する言葉とかけるべき言葉について語っていただきます。
鈴木香里武さんのインタビュー第2回はこちら
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