「子どものために」と思うあまり、習い事や学習で子どもの時間をいっぱいにしていませんか? 民間学童保育の先駆けとして、約20年にわたり子どもたちの成長を見守ってきた東急キッズベースキャンプ代表・島根太郎さんは、「手をかけすぎないことこそ、子どもの力を育てる」と語ります。放課後や長期休みの約1600時間にも及ぶ時間を、どのように過ごすかが子どもの未来を大きく左右します。これからの時代に求められる“人間力”とは? そして、その力を育てる家庭や放課後の過ごし方とは? 子育てに悩む保護者にこそ知ってほしい、大切なヒントを伺いました。
株式会社東急キッズベースキャンプ 代表取締役社長 社長執行役員
島根太郎さん プロフィール
中央大学卒業後、事業開発や心理学関連の分野を経て、2006年に民間学童保育キッズベースキャンプ(以下「KBC」)を設立し、東急グループ入り。以来、開発から約20年にわたり、子どもたちの「人間力」を育む学童保育のあり方を追求している。現在は一般社団法人キッズコーチ協会の代表理事も務め、保育士資格を持つ実践者として、全国の保護者や教育関係者から注目を集める。著書『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』で、「手をかけすぎない子育て」の重要性を提唱。子どもの「人間力」を育む教育プログラムの開発・実践に取り組む。
子どもを育てる「手放す勇気」
未来:まず、島根さんが著書「子どもの人生が変わる放課後時間の使い方」でもお話されている「親が手放すことの大切さ」について、教えてください。
島根太郎さん(以下、敬称略):「手放す」というのは、けっして子どもを放置することではありません。愛情を持って関わりながらも、あえて手を出さずに見守るという選択です。ネグレクトのように無関心でいるのではなく、「ここは子どもに任せよう」という意志をもって距離をとることですね。
未来:「手放す」と「放っておく」は似ているようで、本質がまったく違いますね。
島根:そうなんです。たとえば、子どもが何か言おうとしたときに、親が先回りして「こうなんじゃない?」と口を挟んでしまうことって、よくありますよね。でもそこをぐっとこらえて、子ども自身が考える時間を与える。それが自立につながっていきます。
私自身、保育園のときに一人でバスに乗って通った経験があります。35円の子ども料金の運賃を10円玉を3枚と5円玉で払っていたんですが、ある日10円玉を1枚なくしてしまって。「どうしよう」と思いながら、正直に「1枚なくしちゃった」と運転手さんに言ったら、「いいよ」って笑ってくれた。そのときはほっとしましたが、もちろん後から足りなかった分はちゃんと払いました。この経験が「自分でピンチを乗り越えられた」という自信につながったんです。
未来:お金を落としてしまったことは失敗だったかもしれませんが、任されていたからこそ「自分でなんとかしよう」という責任感が働いたんですね。それが結果として、成長のチャンスになったということですね。
島根:保育園の帰りは、弟と一緒に寄り道しながら1時間以上かけて帰ったりもしていて、弟の面倒を見ながら帰っていることに「ああ、自分でできるんだ」と実感できたんです。今思えば、親に送り迎えをしてもらっていなくても母親に愛情不足を感じたことは一度もありませんでした。
未来:今とは時代が違いますが、子どもに任せることが自立を育んでいたんですね。現代では、保護者の方のなかには「ちゃんと手をかけなきゃ」という思いが強い方も多いと感じています。
島根:その気持ちもわかります。でも、親が全部やってしまうと、子どもが「自分でやろう」とする機会を奪ってしまうんです。KBCではお買い物体験も取り入れております。最初は「お金はこれで足りるかな?」「何袋買えば足りるんだろう?」と戸惑っていた子が、何度か繰り返すうちに仲間と相談しながら判断できるようになる。そうやって、自分で考えて動く力が育っていくんです。子どもにはもともと力がある。だからこそ、それを信じて見守ることが大切だと思います。
考える力は“余白時間”で育つ
未来:最近の子どもたちは、習い事や学習で放課後の時間が埋まっていて、「余白時間」が足りないとも言われています。この点について、どのようにお考えですか?
島根:余白時間、つまり”何もしない時間”は子どもにとって本当に大切です。その時間があるからこそ、自分で「次に何をしようか?」と考えたり、選んだり、決めたりする力が育まれるんです。放課後に子どもが家庭や学童で過ごす時間は、小学校6年間で合計約1600時間にもなります。この膨大な時間を、誰と、どんなふうに過ごすかが、子どもの「考える力」や「自立心」を育てるうえでとても重要なんです。
たとえば大人だって、上司に1時間ごとに指示されたらしんどいですよね。子どもも同じで、大人が全部決めてしまうと、「先生、次は何をすればいいんですか?」と常に指示を待つようになってしまう。そうなると、自分で考える力が育たないんです。
未来:KBC(キッズベースキャンプ)では、そのあたりをどう工夫されているんですか?
島根:私たちは、あえて「参加しない」という選択肢も認めるようにしています。イベントがあっても、子どもが「今日は参加せずに本を読みたい」と言えば、それを尊重します。そうした自由な選択の積み重ねが、自己決定力を育てていくんです。

提供:株式会社東急キッズベースキャンプ
未来:「ぼーっとしている時間」についてはどう考えていますか?
島根:すごく重要だと思っています。大人はつい「何してるの? 宿題は?」って言いたくなりますが、じつはぼーっとしているときって、脳の中では情報の整理が行われているんです。脳科学でいう「デフォルトモードネットワーク」が働いている状態ですね。
未来:なるほど。私たちも、アイデアが浮かぶのって、意外と何もしていないときだったりしますよね。
島根:そうなんです。私自身も、会議室では何も思い浮かばなかったのに、電車の中でうとうとしていると、ふとアイデアが出てきたことが何度もあります。子どもも同じ。空想したり、ただのんびりしたりする時間は、創造性の源なんです。だから、大人の価値観で「無駄な時間」と決めつけず、そういう時間も肯定してあげてほしいですね。
社会を体験する「考える放課後」
未来:キッズベースキャンプでは、子どもたちが「考える」「考えさせられる」ような仕組みづくりに力を入れていると聞きました。具体的には、どのような取り組みをされているのでしょうか?
島根:代表的なのは「KBCタウン」という取り組みです。市長選挙を行ったり、お店のコンセプト作りから商品の準備など子どもたち主体で準備を行います。子どもたちは当日仕事をして疑似通貨をもらい、買い物をするというリアルな経済活動を体験することができます。

提供:株式会社東急キッズベースキャンプ
未来:自分の役割を持って動くことで、社会の仕組みや協力の大切さを学べそうですね。
島根:新入生の迎え方をみんなで話し合う時間もあります。「新入生のとき、自分はどこで困ったか」「どうすれば安心してもらえるか」を、子どもたち自身が考えます。年齢を超えて協力し合う関係も自然と生まれ、高学年が低学年をサポートする場面も多いですね。
未来:個性を活かせる場面も多そうですね。
島根:そうですね。前に出るのが好きな子もいれば、裏方で黙々と作業するのが得意な子もいます。KBCでは、どの子にも「自分らしく活躍できる場所」があると感じられるよう工夫しています。みんなと同じことができるかどうかではなく、自分の得意なことで役割を持てることが、自信につながっていくんです。
AIでは代替できない「人間力」の育て方
未来:ここまでお話を伺ってきて、「考える力」や「自分で決める力」など、数字には表れにくいけれど大切な力がたくさんあると感じました。そうした力は、いわゆる「人間力」とも言えるのかもしれませんが、具体的にはどのような力を指しているのでしょうか?
島根:自信、自己肯定感、自立心、他者と関わるための社会性やコミュニケーション力といった、非認知能力のことです。数値では測れない力ですが、生きていくうえで非常に重要なものです。
未来:AIが進化する中で、こうした力の重要性が高まっているとも言われています。
島根:情報処理のような作業はAIが担える時代です。でも、人と信頼関係を築く力や、感情をコントロールする力、共感する力は、人間にしか備わっていません。だからこそ、これからの時代に必要なのは「人間らしさ」なんです。
未来:家庭で人間力を育てるには、どんな工夫ができるでしょうか?
島根:まず、子どもは大人のふるまいをよく見ているという前提を持つことです。大人が宅配便の人にどう接しているか、玄関で靴を揃えているか、そういった日常の姿勢が、子どもにとっての学びになります。
未来:日常を「学びの場」として意識するわけですね。
島根:たとえばスーパーで「この棚の商品はどうしてここにあると思う?」と子どもに問いかけるだけでも、視点や思考力を育む機会になります。お菓子でもいわゆる「大人買い」するような商品は棚の上のほうに置いてあるなど、特別な教材がなくても、日々の中に考えるチャンスはたくさんあります。
未来:なるほど、「なぜこうなっているのかな?」という声かけひとつで、日常が変わりますね。
島根:正解を教えることよりも、「一緒に考えてみる」ことが大切です。子どもが疑問を持つ機会をつくり、それを肯定的に受け止めてあげることが、人間力を育てる土台になります。
信じて任せることで、子どもは育つ
未来:KBCを運営していくなかで子どもの成長を実感される場面には、どんなものがありますか?
島根:サマーキャンプに参加した子どもたちを見て、親御さんが一番驚かれるのは「うちの子がこんなことできるなんて」という瞬間です。家では親がやっていたことも、環境が変わると子どもは自分でやりはじめるんです。

提供:株式会社東急キッズベースキャンプ
未来:周囲の影響や、自分でやらざるを得ない環境が後押しになるんですね。
島根:自分で靴ひもを結べなかった子が、仲間を見て自然とチャレンジするようになる。子どもにはもともと力があるんです。親が全部やってしまうと、その力が表に出てこないだけなんです。
未来:保護者としては、つい手を出したくなる場面も多いと思います。
島根:だからこそ、「8割は褒めて、2割で次の提案をする」という関わり方が大切です。まずは子どもの良いところを見つけて声に出す。それだけで子どもは安心して、自分から動こうという気持ちになります。そのうえで、「次はこうしてみたらどうかな?」と伝えると、前向きに受け取ってくれるようになります。
未来:子どもに対しても、自分に対しても、少し寛容になるといいのかもしれませんね。
島根:親も人間ですから、感情的になったり、うまくいかない日もあります。そんなときは「今日は褒めてみよう」と意識して、良いところを見つけて言葉にしてみる。怒りすぎたと思ったら、次の日は優しく接してみる。それだけで十分です。子どもは、そういう親の姿勢をちゃんと見ています。
そして、一緒に暮らしていきながら、そのように子どもとの関係を構築したり、何かあったら修復したりできることが、家族のいいところだと思います。
未来:親が構えすぎず、共に育つ気持ちを持つことが、子育てには大切なのかもしれません。
島根:子どもを信じて見守ること、それが子育ての原点だと思います。放課後の時間や日常の中にある小さな選択の積み重ねが、子どもたちの「人間力」を育てる時間になるんです。
取材を振り返って
今回の取材で、とくに印象に残ったのは、子どもたちに「考える・考えさせる」経験を届けるための工夫でした。KBCタウンでの選挙や市長の公約づくり、世界の社会課題をテーマにしたディベートなど、子どもが自分の頭で考え、他者と関わりながら行動する場が用意されていることに、深く感銘を受けました。一方で、「手放す」とは放っておくことではなく、愛情を持ってあえて任せること、という視点もとても新鮮でした。買い物をクイズ化して声をかける日常の工夫や、「8割褒めて、2割で提案する」声かけのバランス、そして「親子で一緒に失敗して学ぶ」という姿勢にも背中を押されました。完璧な親にならなくていい。ただ、子どもが持っている力を信じて、一歩引いて見守る。その勇気と覚悟を、あらためて考えさせられる時間でした(KAZ)。
「放課後」の価値を見直す一冊

「子どもの人生が変わる 放課後時間の使い方」著者:島根太郎 発行:講談社+α新書 定価:1,100円(税込)
民間学童保育のパイオニア・島根太郎さんが、放課後時間を「学び」と「育ち」の場に変える視点をまとめた初の著書。非認知能力を育むために必要な「余白時間」の大切さや、家庭で実践できるコーチングの関わり方など、保護者にとってすぐに役立つヒントが詰まっています。日々の子育てに悩んだとき、そっと背中を押してくれる一冊です。
株式会社東急キッズベースキャンプ 代表取締役社長 社長執行役員
島根太郎さん プロフィール
中央大学卒業後、事業開発や心理学関連の分野を経て、2006年に民間学童保育キッズベースキャンプ(以下「KBC」)を設立し、東急グループ入り。以来、開発から約20年にわたり、子どもたちの「人間力」を育む学童保育のあり方を追求している。現在は一般社団法人キッズコーチ協会の代表理事も務め、保育士資格を持つ実践者として、全国の保護者や教育関係者から注目を集める。著書『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』で、「手をかけすぎない子育て」の重要性を提唱。子どもの「人間力」を育む教育プログラムの開発・実践に取り組む。
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