えんぴつがうまく持てない。はさみでまっすぐ紙が切れない…そんな子どもの「ちょっとした困りごと」を、やさしく解決してくれる文房具があります。『支援が必要な子からちょっと不器用な子まで 子どもの困ったを解決するハッピー文房具図鑑』(学事出版)は、支援が必要な子どもから、少し不器用な子まで、一人ひとりに寄り添う文房具を紹介する本です。どのページにも、日常の「できない」を「できた!」に変えるヒントが詰まっています。
著者は、文房具の魅力や使いやすさを伝える「文房具プレゼンター」として活躍する、ふじいなおみさん。ラジオ番組『他故となおみのブンボーグ大作戦!』や、ウェブメディア『文具のとびら』『HugKum』『Web Gakuji』などで発信を続けています。今回は、ふじいさんに本づくりの背景や、子どもと文房具への思いを伺いました。
【本紹介】多彩な文房具とやさしい構成。読むほどに発見がある一冊
ページを開くとまず驚くのは、同じ「書く」や「塗る」といったカテゴリーの中でも、子どもの特性や困りごとに合わせて、こんなにも多くの文房具が存在するということです。えんぴつをはじめ消しゴム、絵の具、はさみなど、ひとつの道具にも力の入れ具合や感触、素材の違いなど、子どもによって合う・合わないがあることをあらためて気づかされます。

とくに印象的なのは、各ページが「困りごと」を出発点に構成されている点です。「消しゴムが折れやすい」「絵の具がうまく出せない」「はさみが怖い」など、子どもがつまずきやすい場面をていねいに拾い上げ、それぞれに合う文房具が紹介されています。ひとつの製品を押し出すのではなく、「いくつかの選択肢を見比べて、自分に合うものを見つけよう」という姿勢が全体に通っています。

図鑑のように読みやすいレイアウトも魅力です。写真が大きく、コメント欄も余白を活かしたデザインで、読みながら“実際に試したくなる”構成になっています。ページをめくるごとに、「こんな工夫があったんだ」と発見があるのも楽しいポイントです。

また、消しゴムのスリーブ(巻いてある紙)がなぜ必要なのかといったコラムや、文房具の開発者へのインタビューなど、単なる紹介にとどまらず、文房具そのものに詳しくなって興味を持つきっかけになるのが、この本の特徴です。
【著者インタビュー】「先生も保護者も、文房具を意外と知らない」と気づいたのが出発点
未来:最初にこの本がどんな経緯で誕生したのかを教えてください。
ふじいなおみさん(以下、ふじい):娘が小学2年生のときの懇談会で、先生からノートの説明があったのですが、「あまり売られてないのですが、13個のマスが並んでいるノートがいいと聞いたので採用しました。何にいいかは忘れてしまったのですが……」と答えていました。そこでしっかり意味を持って選んでいるのだろうか? 特長を生かせているのか? 先生にしっかりした文房具の知識を持ってもらいたいと思いました。
未来:私たちも「先生にすすめられたから」「安かったから」といった理由で選ぶことが多いかもしれませんね。
ふじい:でも学童文具って、じつは毎年どんどん進化しているんですよ。にもかかわらず、学校や家庭では昔ながらのものを“そのまま”使っているケースがすごく多い。たとえば定規ひとつでも、握りやすさや押さえやすさなど、子どもによって合うものが全然違います。
未来:文房具は「誰が使っても同じもの」という感覚で見ていました。そんなに差があるとは驚きです。
ふじい:ですよね。でも、文房具って本来すごく「個性のある道具」なんです。たとえば消しゴム1個でも、力がないお子さん向けには、優しく擦ってもよく消える消しゴムがありますし、力が強いお子さんには折れにくく作られている消しゴムもあります。でも、それを知らないまま子どもに「これを使いなさい」と渡してしまう。すると、その消しゴムが自分に合わなかったときに「自分は不器用だからできない」と思い込んでしまう子もいるんです。
未来:なるほど。使いづらさが「できない」という気持ちにつながってしまう。そこに、ふじいさんが伝えたいテーマがあるわけですね。
ふじい:はい。「困っている子のための特別な道具」ではなく、「誰もが自分に合う文房具を選べるようにしたい」という思いが出発点でした。文房具はもっと自由に選んでいいし、子どもたちが自分で“これが好き”と言えるような環境をつくりたかったんです。そうした気づきが、この本のコンセプトの根幹にあります。
未来:ふじいさんはもともと子どもの学びを支えるツールとして文房具を取材されていましたが、この本づくりでとくに大切にしたことは何ですか?
ふじい:私は“押しつける紹介”にはしたくなかったんです。みんな発達の状況が違うし、感覚のとらえ方もさまざまなので、「こんなのもあるよ」や「どれが好きかな?」と子ども自身が選べるようにしたかった。
たとえば、滑りづらい加工がされている鉛筆でも、手触りが合う子と合わない子がいますよね。グリッパーえんぴつという、全体に滑り止め加工がされている鉛筆があるんですが、少しベタベタした感触なんです。これが使いやすい子もいれば、どうしても感触が気になる子もいる。だからこの本では、滑り止め付き鉛筆だけで3つのメーカーの商品を紹介しています。触り心地を確認して、自分に合う一本を見つけてほしいと思ったからです。

未来:なるほど、比較ではなく「選択肢を見せる」構成なんですね。
ふじい:はい。それは絵の具のページでも同じです。ぺんてるとサクラクレパス、どちらかを優劣で語るのではなく、それぞれの特徴を紹介しました。ぺんてるの絵の具はチューブが柔らかくて少ない力で絵の具を出せるし、サクラクレパスの絵の具はチューブを逆さに立てて押すと、ちょうどよく出せるようになっています。どちらが正解ではなく、子どもの力の入れ方や使い方によって選んでもらえたらと思っています。
未来:読んでいると、「こうしなさい」ではなく「こういう選び方もあるよ」という声かけのように感じます。
ふじい:まさにそうなんです。子どもって、道具が合うだけで「できた!」という経験が増えることがたくさんあると思うんですよ。だから大人が先回りして選ぶのではなく、一緒に「どれがいいかな」と話しながら探す。その過程こそが、子どもの自信につながると思っています。文房具を通して「自分に合うものを見つける」「自分の“好き”を知る」ことを体験してもらえたらうれしいです。
現場の声を形に。先生との協働で見えてきた“子どもの使いやすさ”
未来:今回は筑波大学附属大塚特別支援学校の佐藤義竹先生が監修を担当されていますね。どのような形で関わられたのでしょうか。
ふじい:佐藤先生は支援学校で長年、学級担任として子どもたちに直接指導・支援をしてきたほか、最近では地域の幼稚園や小学校の巡回相談・校内研修等を通して多くの先生方と関わり、先生と共に特別支援の実践について考えてます。最初の打ち合わせのときから「実際の現場でどんな場面で困るのか」をていねいに共有してくださって、それをもとに私が文房具を提案する。そんなやり取りを何度も重ねていきました。
未来:まさに、現場と文房具の視点が行き来するプロセスですね。
ふじい:そうですね。たとえば先生から「鉛筆の濃さを一律2Bにすると、力が強い子にとっては字が濃すぎて消しゴムで消せないなどの問題が出てきます。だから、ここのお子さんにあった鉛筆の濃さを見つける方法はありませんか?」とご質問をいただいて、実際に同じメーカーで濃さが違う12本入りの鉛筆をお持ちして、先生に試していただきました。「こんなに違うんですね」と驚いていらっしゃいました。
未来:実際に使ってみることで、子どもの困りごとを“体感的に”理解していったんですね。
ふじい:はい。佐藤先生は「子どものことを一番に考えて、有効なものならなんでも試してみようと考えられる方でしたし、文房具自体にもとても興味を持たれていました。なので、さまざまな製品をご紹介できたと思っています。
未来:ページ構成もすごくわかりやすいですよね。「書く」「消す」「切る」「貼る」など、動詞ごとに分類されていて、読みながら使う場面が思い浮かびました。
ふじい:ありがとうございます。この分け方は、監修の佐藤先生が出してくださったアイデアです。大型の文房具屋さんの図面を用意して、そこにあるものから「切る」「塗る」などのテーマを探していきました。文房具を“種類”ではなく“使う動作”で整理すると、子どもの「困りごと」とのつながりが見えやすくなるという発想に驚きました。

「しまう・片づける」など使う動作をテーマに文房具を紹介
未来:単に分類としての「書くもの」「切るもの」ではなく、子どもの行動から見えてくる構成なんですね。
ふじい:はい。文房具売り場の棚って、動詞で分けられていることが多いんです。それを本の構成にも取り入れることで、実際の売り場や授業の場面と結びつけて考えやすくしました。そうやって“使う場面”から探せるようにしたいと思いました。
誰もが使いやすい文房具を目指して
未来:掲載されている文房具のなかで、とくに印象に残っているものはありますか?
ふじい:たとえば「スクールラインプラス」というノートは、字を書くのが苦手な子や発達段階に応じて大きな字を書く子にも使いやすいように、50mm方眼のノートや、苦手な子が一定数いる十字リーダーの有無を選べるようになっています。それをメーカー自身が“特別な子のための道具”ではなく、“誰でも使える文房具”として考えられている点が印象的でした。

未来:最近は「合理的配慮」という言葉もよく聞きますが、まさにそれを文房具の世界で実現していますね。
ふじい:そうですね。ほかにも「カラーマスノート」は、マスに色がついていることでひらがなや漢字を書くときに位置を認識しやすくなっていたり、視覚的に整理しやすかったりする工夫がされています。必要な子には助けになるし、そうでない子も自然に使える。そういう“誰にとってもやさしい文房具”を紹介したかったんです。
未来:子どもの「できた!」を支える文房具がたくさん載っている印象です。
ふじい:はい。ひとつの困りごとに対していくつもの選択肢を並べることで、「あ、これならできるかも」という出会いが生まれると思うんです。文房具って、ただの道具ではなく“挑戦をそっと支える存在”なんですよね。
未来:読者へのメッセージとして、どんな思いを込めていますか。
ふじい:子どもの「困った」は、その子の努力が足りないからではなく、道具や環境が合っていないだけのこともあります。文房具を変えるだけで、毎日の「やりづらい」が「できた!」に変わる。そんな瞬間を、この本を通してたくさんの親子に体験してもらえたらうれしいです。
取材を終えて
ふじいさんの本には、文房具への深い愛情と、子どもたちへのやさしいまなざしが詰まっています。紹介されている道具のどれもが、「困っている子を助けるため」だけでなく、「どんな子にも使いやすく」「選ぶ楽しさを感じられる」工夫にあふれていました。ページをめくるたびに、「こんな文房具があったんだ!」という発見があり、大人でも思わず試してみたくなるものばかりです。使いやすさやデザインだけでなく、子どもの気持ちに寄り添う視点があるからこそ、読むほどに温かさを感じます。文房具を通して、子どもの世界を広げていく。そんな希望を感じる一冊でした(KAZ)
お話を伺ったのは…ふじいなおみさん
〈著者プロフィール〉
文房具のさまざまな特長・長所をより多くの方々に広める(プレゼンをする)「文房具プレゼンター」として活躍。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」をはじめ、ステイショナー「文具のとびら」、 小学館「HugKum」などのweb連載、動画「イロブンの引き出し開けていこう」など、さまざまなメディアで発信を行っている。万年筆のインクにも造詣が深い。
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