子どものころから大切だと教えられる「あいさつ」。でも、そもそもあいさつは、どうして大切なのでしょうか。また、あいさつができる子どもに育てるには、どうすれば良いのでしょうか。専門家に聞きました。
「あいさつ」が大切な理由って?
「人は社会の中で、自分の居場所や存在を確認しながら生きています。その中でもあいさつは、相手の存在を認め、自分は敵ではないということを簡単に示せる行為。だからこそ人は、あいさつをされると社会の一員として存在しているという安心感が得られるのです。」
こう話すのは、子どもの生きる力を育む教育をサポートする団体、「NPO法人いきはぐ」の教育コーチ、吉田忍さん。
お互いあいさつをして存在を認められることで、自己肯定感が高まり、おのずとコミュニケーションも円滑に。友達の輪も広がりやすくなります。
あいさつは会話の中から生まれた
「おはようございます」「こんにちは」など、普段何気なく口にしているあいさつ。じつはこれらのあいさつには、それぞれに由来があると言います。
「あいさつで使う言葉は基本的に、かつて会話で話していたフレーズが、言いやすいように簡略化されていったものです。」
そこで吉田さんに、代表的なあいさつの語源を教えてもらいました。
よく使うあいさつの語源
- こんにちは…「今日(こんにち)はご機嫌いかがですか」
- さようなら…「左様ならば、ご機嫌よろしゅう」(「そういうことで、また」といった別れ際の会話)
- おはようございます…「お早いですね」
- ごめんなさい…「免じてください」
- ありがとう…「有り難い」(有るのが難しい、つまり当たり前ではないことをしてもらった、の意)
- いただきます…「命をいただきます」
- ごちそうさま…「ご馳走になりました」(「馳走」という漢字には「馬を駆け巡らせる」という意味があり、食材などを準備するために馬を走らせ、食事を用意してくれた人への感謝の気持ちが込められている)
日本特有のあいさつに表れる「感謝の気持ち」
中でも「いただきます」「ごちそうさま」は、他の国にはない、日本特有のあいさつだと吉田さんは言います。
「八百万(やおよろず)の神という言葉があるように、日本では、すべてのものに神様がいて、命があると考えられていました。その命をいただくという意味で、食事の前に手を合わせ『いただきます』と口にするようになったのです。」
また「ごちそうさま」も、日本人のルーツが農耕民族だったことから生まれているのだとか。
「農耕民族だった日本人は、みんなで協力し合って田畑を耕し、作物を育ててきた歴史があります。個の力を認め、助け合って生きてきたからこそ、人に自然と感謝ができる。『ごちそうさま』と食事を作ってくれた人に感謝するのは、日本人の、人をねぎらう文化がベースにあるのです。」
日本人ならではのあいさつが「感謝の気持ち」から生まれているなんて素敵ですよね。
では、そんなあいさつを、今の子どもたちはどれくらいできているのか、「いこーよ」ユーザーにアンケートで聞いてみました。
子どもが苦手なあいさつは「ごめんなさい」
アンケート結果を見ると、約7割の子どもが自発的にあいさつができている様子。でもどうやら、苦手なあいさつもあるようです。
子どもが苦手なあいさつワースト5
- ワースト1 ごめんなさい
- ワースト2 おはようございます
- ワースト3 こんにちは
- ワースト4 おやすみなさい
- ワースト5 ありがとう、行ってきます、ただいま
これらのあいさつができていない理由としては、「プライドが邪魔をして謝れない」「自分が悪いと思っていない」「タイミングがわからない」「あいさつの必要性を感じていない」などと考えているパパママが多いよう。
「これらの理由は、確かに当てはまると思います」と吉田さん。
「中でも、『プライドが邪魔をして謝れない』『自分が悪いと思っていない』は、どちらも、そもそも悪いことをしたと思っていないケースが多いと思いますよ。」
そうした場合には無理やり謝らせるのではなく、まずは何が悪かったのかを教えてあげる必要がありそう。
では、タイミングがわからなかったり、必要性を感じたりしないのはなぜなのでしょうか。
親が口にしないあいさつは覚えにくい
「パパやママなど周りの大人があまり口にしないあいさつは、子どもも『いつ、どこで』『なんのために』するあいさつなのか、よくわからないのではないでしょうか。」
「あいさつは、まわりの大人を見ながら学んでいくもの」と吉田さん。そのため、パパやママが子どもの前であまりあいさつをしないでいると、学ぶ機会が少ない分、なかなかタイミングや必要性を理解しにくいようです。
さらに吉田さんによれば、子どもがあいさつをできるようになるには、3つのポイントがあると言います。
あいさつができるようになる3つのコツ
- 親が楽しそうにあいさつをする
- 最初に子どもの名前をつけてあいさつをする
- 子どもがあいさつをしたときやされたときに、「気持ちいいね」など、感じたことを言葉で代弁する
これらが大切である理由と、具体的な声かけの方法を吉田さんに伺いました。
ポイント1:親が楽しそうにあいさつをする
例えば、「『いただきます』と感謝の言葉を言ってからご飯を食べると、気持ちいいよね」などと言って親が楽しそうに食事をしていたら、子どもも「あいさつをしてからご飯を食べることは良いことだ」と感じるようになっていきます。
「親の楽しそうな雰囲気は、理屈抜きで伝わります。だからこそ、まだ言葉が理解できない赤ちゃんの頃から、楽しそうなあいさつを心がけてほしいですね。あいさつは楽しいとインプットされれば、自然と子どもも真似をし始めると思いますよ。」
ポイント2:最初に子どもの名前をつけてあいさつをする
「『○○くん、おはよう』などのように、最初に我が子の名前をつけてあいさつをすることで、『このあいさつは、あなたに向けて言っているんだよ』というメッセージ性が強くなります。」
すると子どもは、「ママ(パパ)は僕を認めて、受け入れてくれている」と感じてうれしくなるもの。
このあいさつが習慣化すれば、子どもも友達へのあいさつで名前を付けるようになり、呼ばれた友達も喜びます。そして、「あいさつをするとお友達がうれしそう」とわかると、あいさつそのものが楽しい行為になっていきます。
あいさつのあと、「気持ちいいね」など、感情を代弁する
「子どもがあいさつをしたり、されたりしたときに『こんなふうにあいさつができたら(されたら)うれしいね!』などと言葉に出して言うことで、「あいさつは楽しい」という実感が湧きやすくなります。」
「あいさつは楽しく、気持ちの良いこと」と感じさせてあげることが、子どもにあいさつを身につけさせるポイントなのですね。
「こうしたポイントを踏まえたうえで、親があいさつをすることの大切さを伝え続ければ、子どももあいさつの大切さが少しずつ理解できるようになっていきますよ。」
人生を豊かにするきっかけにもなるあいさつ。まずはパパママが、あいさつを楽しむことから始めてみませんか?
お話を聞いたのは…
吉田 忍さん
NPO法人いきはぐ、教育コーチ。3児の父。ハウスメーカーで、東南アジアの海外駐在を10年経験後、コーチングファームに入社し、プロビジネスコーチとして、約6000人の組織リーダーをコーチする。その後、コーチングの技術を家庭教育や学校教育に活用してもらえるよう、東京・神奈川・千葉・茨城・埼玉・大阪・山梨・広島など全国で講演やセミナーを実施中。講演テーマやお問い合わせは下記の公式ページ参照。
NPO法人いきはぐ
トップ1割の教師が知っている「できるクラス」の育て方
ライター紹介
近藤 浩己
1974年生まれ。ライターズオフィス「おふぃす・ともとも」のライター。トラック運転手からネイルアーティストまでさまざまな職を経験。しかし幼い頃から夢だった「書くことを仕事にしたい!」という思いが捨てきれずライターに。美容・ファッション系ライティングが得意だが、野球と柔道も好き。一児の母。
※2017年2月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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