栃木県宇都宮市のさつき幼稚園では、毎朝父母も参加し“じゃれつき遊び”を実践。“じゃれつき遊び”は子どもの大脳前頭葉を興奮させ活性化させ、親子の信頼関係も築いてくれるスキンシップ遊びです。連載2回目では“じゃれつき”の基本、抱っこの大切さをお伝えします。
親子の心と心を通わす“じゃれつき遊び
毎朝20分間、さつき幼稚園に登園してきた子どもたちは、先生や保護者も一緒になって“じゃれつき遊び”をします。とにかく、群れて、密着して、大はしゃぎ! そして時間がくると潮が引いたように終了し、数分後には“じゃれつき遊び”の時の大興奮とは一転し、静かに集中して椅子に座って礼拝を受けるのです。この“興奮”と“抑制”の切り替えの素晴らしさこそ、“じゃれつき遊び”の成果。大脳全体の司令塔である大脳前頭葉が発達している証しなのです。
親子関係に溝があると、上手にできない
さつき幼稚園では、保護者も園児と一緒に“じゃれつき遊び”をしますが、親子で全身を使って遊ぶことで、他にも大きなメリットがあるのだそう。
「“じゃれつき遊び”は、親も子どもも元気いっぱいに遊びますが、その内側には、人と人との心の交流があります。スキンシップ遊びですから親子の信頼関係を深めてくれるのです」と園長の野尻ヒデ先生。
しかし、親子によっては最初は上手に“じゃれつき遊び”ができないケースもあるのだとか。
「親子の触れ合いを勧めても、すぐに離れてしまう子どもがいるんです。反対に、子どもとのスキンシップが苦手なお母さんも少なくありません。そこでまずは親子の溝を埋めていく努力が必要です。」
子どもたちには、抱っこが足りていなかった!
「35年前に“じゃれつき遊び”を開始して気付いたのは、幼稚園に入る前の親子のスキンシップが全く足りていないということでした。子どもたちは、まるで乾いた地面が水を吸い込むような勢いで、幼稚園の先生に抱っこや、おんぶを強く要求してきました。」
抱っこやおんぶは、子どもの精神的な安定に必要不可欠なスキンシップです。「子どもが不機嫌な時、荒れたり、友達と遊べなかったりした時、お母さんがしっかり抱きしめてあげることで、解決に向かうことが多くあります」と野尻先生。言葉よりなにより、抱っこすることで子どもの気持ちを受け止め、全面的に受容してあげることが大切なのですね。
毎朝、“じゃれつき遊び”の基本、抱っこをしよう!
もし「これまで子どもをあまり抱っこできていなかったな」と抱っこ不足を感じた場合は、糸をほぐすように、時間を掛けて抱っこを続けるといいようです。「抱っこ」とひとことでいっても、やり方はいくらでもあります。いまさら抱っこするのが恥ずかしいという方は、遊びの流れの中で取り入れてみましょう。
まずは「抱きしめて、話しかける」
“じゃれつき遊び”はスキンシップ遊び。その基本は、抱っこです。「お父さん、お母さんは、子どもにとって世界で一番大事な人ですから、抱っこをすることを親が心から喜べたら、子どもにとっても幸せなひとときになるはず。」
さっそく、子どもを抱っこしてあげましょう。まずは子どもの顔を見つめて、話しかけてください。ゆっくりと左右に動かしたり、高い高いをしたり、抱っこしたまま回転したり、歩いたり。親子でいろんなバリエーションを楽しんでください。
「人間ゆりかご」
親は仰向けになり、お腹に子どもを乗せて包み込むように“ラッコちゃん抱っこ”を。顔と顔をくっつけて、ゆりかごのようにユラユラ揺れてください。
「おんぶでお馬パッカパッカ」
おんぶも、親子で温もりを感じあえるスキンシップ。「パッカパッカ」といいながら、子どもを上下に振って、さらにお馬さんのような動きで歩いて遊びましょう。
朝行えば“早寝・早起き・朝ごはん”も実現!
野尻園長いわく、こうした”じゃれつき遊び”を毎朝行なうことで、生活リズムを整え、より健康的な生活が送れるようになるのだとか。
「8年前から文部科学省は『早寝早起き朝ごはん』国民運動を推進し、普及に取り組みましたが、残念ながら根付くことなく早くも親達から忘れ去られようとしています。このキャンペーンには決定的な欠陥がありました。『早寝早起き朝ごはん』を実現するためには、何よりも充分な運動量が必要です。子どもを充分遊ばせることは、現代社会においては一番難しい課題になってきたのかもしれません。」
「乳幼児の生活の大半を占めるのは遊びです。充分な運動量があれば、特別な取り組みをしなくとも『早寝早起き朝ごはん』は実現できるはずです。“じゃれつき遊び”は、大脳前頭葉を興奮させ活性化させますから、朝遊ぶことによって、一日中がより活動的になっていきます。」
親子の心の絆を深めるばかりでなく、生活リズムを整え、脳の活性化にも繋がる「じゃれつき遊び」。毎朝5分、まずは抱っこから“じゃれつき遊び”を始めてみてはいかがでしょうか。
「じゃれつき遊び」をする際の注意点
前回のおさらいになりますが、“じゃれつき遊び”は活発に体を動かすので、大きな怪我をしないように、下記のような点に注意して遊びましょう。
- 乳児の脳はゼリーのように柔らかい。2歳児位の骨は軟骨の部分が多いので、強い刺激を与えない。
- 家具や家電など固いもの、ガラスなど割れやすいものから離れて遊ぶ。
- 髪飾り、眼鏡は着けない。大切な顔を傷つける可能性のある、チャック付きの服などは脱いで遊ぶ。
- おもちゃなど物を持たせない。
- 子どもの表情は心を映し出す鏡。楽しんでいるか、嫌がっていないか、不安そうでないか子どもの表情をよく観察しながら遊ぶ。
お話を聞いたのは…
野尻 ヒデさん
さつき幼稚園園長。園長とクラス担任を兼務する中で、35年前“じゃれつき遊び”を発見。現代社会では、乳幼児期の子どもの教育に、親が真正面で取り組んでいないことに警鐘を鳴らしている。関係がもつれた親子に“じゃれつき遊び”を提案、回復させたケースも多い。
さつき幼稚園
ライター紹介
千谷 文子
1969年生まれ。フリーの編集・ライター。ニッチな温泉エリアのご近所温泉を案内する、『さいたま湯めぐり』シリーズ3冊を出版。それを機にケーブルテレビの番組に温浴ナビゲーターとして出演。インコが頭に飛んできたり、愛犬の寝言に耳を傾けたり。そんな瞬間が幸せな日々。
※2015年12月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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