誰が教えたわけでもないのに、子どもがこっそりお菓子を食べたり、親に内緒でゲームをしたりすることってありますよね。パパママとしては裏切られた感じがして、ついつい強めに叱ってしまいがちです。
ですが、「親に内緒」の行動は、そもそもいけないことなのでしょうか? 見方を変えれば、知恵を働かせて工夫をしたとも言えそうです。そこで、大阪府にある「谷町こどもセンター」で所長を務める臨床心理士の日下紀子さんに、子どもが「隠し事」をする心理や意味、親の対処法について詳しく聞きました。
「内緒」の行動はいいこと? 悪いこと?
そもそも、どうして子どもは親に隠れていろいろとしたがるのでしょうか。
「『○○をしたい!』という欲求を抑えられないのが主な原因ですが、親に見つからないように自分で考え、行動を起こすということは、自立心や自制心といった心の成長の表れでもあります。ですから基本的には、親に隠し事をしない子どもはいないものです」
「逆に言うと、何でも親に話してから行動をする子は、許可をもらわないと行動できない、ということになります。それはそれで心配ですよね? ですから、親に秘密が持てるということは、子どもが健全に育ってきている一つの証でもあります」
秘密で何かをすることは、親から離れていろんなことを試したり、勉強したりしているのと同じこととも言えそうですね。
たとえば、親に内緒で戸棚のお菓子を食べるにしても「1個だけならバレないかな」「元の場所に戻しておけば大丈夫かな」など、状況判断をしながら、自分で考え、自分の欲求をコントロールしているとのこと。
よほど行き過ぎた行動でない限り、ちょっとした秘密を持つことは、悪いことではないようです。
約束を破ったときの親の対応は?
とはいえ、親との約束を破って、こっそりお菓子を食べたり、ゲームをした場合は、ちゃんと注意したいもの。どんな注意の仕方がベストなのでしょうか。
「約束を破ったケースであれば、まず『これはこういう約束だったよね?』と、ルールを示してあげましょう。その上で『どうしてこれをしちゃったのかな?』と理由を聞くといいでしょう」
子どもの年齢によっては、理由を聞かれてもうまく説明できないこともありますが、そんなときは、その行動を起こす前の子どもの様子を考えて、親が想像力を働かせることが大切なのだとか。
「たとえば、こっそりお菓子を食べたとき。お昼ごはんはしっかり食べたかどうか、いつも以上に身体をたくさん動かして遊んだのかなど、振り返ってみると原因が見当たることも少なくないはずです」
「そこで、『おなかが空いていたのかな』と考えたなら、『おなかが空いちゃったの?』など、考えつく理由を代弁してあげてください」
そうして、行動を起こした理由を見つけてから、それに合わせた対処を取りまます。
おなかが空いていてお菓子を食べてしまったのなら「じゃあ、ママと一緒に1個だけ食べようか」と提案したり、「晩ごはんが食べられなくなるから、おやつはダメ! でも、明日からはお昼ごはんをもうちょっと増やすね」など、親の考えで対処すれば良いそうです。
注意することも子どもには重要!
では逆に、してはいけない叱り方や対処法はあるのでしょうか。
「見て見ぬ振りをすること、頭ごなしに叱ることはやめてあげてほしいですね」
「まず、見て見ぬ振りについてですが、約束を破っていることは、子どもなりに理解していること。それなのに、それを無視されると『ちゃんと見てくれていない』と感じてしまうことにつながります。なかには『どうせ見ていないから、ママは騙せる』と思ってしまうこともあります」
「自分で考えて行動しているとはいえ、子どもは親に内緒でどこまでやっていいかの加減をわかっていません。ですから、親が注意して止めてくれることが、心の安心にもつながるのです」
その場で気付けなくても、気付いた時に「あれ? お菓子食べた?」「あれ? ゲームした?」などと声をかけることが大切。親の声かけで、子どもは加減を覚えていきますし、親が自分を見てくれている安心感も得られます。
では、頭ごなしに叱るのはなぜダメなのでしょう。
「頭ごなしに叱られると、恐怖心だけが先に立ち、そのあと理由を聞かれても、叱られた衝撃から気持ちを正直に話せなくなります。その場しのぎで謝ることだけを覚えかねないですし、約束やルールを理解するという根本的な解決につながらないのでやめてほしいですね」
もし、これといった理由がなくて、ただゲームがしたかったりお菓子を食べたかったりしただけの場合も大きな声で叱る必要はなく、「約束は約束。だからダメ」と毅然とした態度で振る舞えば良いそうです。
お金を盗むなど行き過ぎた行動の場合は…
頭ごなしに叱るのはNGとわかっていても、親のお金を盗むなど、行き過ぎた行動を起こしたときは、つい大きな声が出てしまいそうなものです。もし、そうした行き過ぎた行動を内緒でしていたときは、どうすればよいのでしょうか。
「人のものを勝手に取ったり、隠したりなどの行き過ぎた行動に対しても、必ず理由があるはずです。まずは、なぜそれをしてしまったのか、理由を見つけてあげてください」
「たとえば、親のお金を盗むとしても、どうしてもほしいおもちゃがあったり、そのおもちゃがないとお友達の輪に入れなかったりなど、子どもなりの理由があるはず。その行動自体が、親へのSOSの場合もあります」
「そうして理由を見つけたうえで、『理由はわかったけれど、お金を盗るのは違うよね』『欲しいときは、ちゃんと言いなさい』と、やり方が間違っていること、正しいやり方を教えてあげましょう」
それでも、「欲しかったんだもん」と大きな理由がないうえに、「ママに言っても、買ってくれないじゃん!」と言い返してくることも…。
「そんなときは、『ダメなものはダメ!』とはっきり伝えることも大事です。理由はどうあれ、良くないことは良くないこと。親が毅然とした態度で振る舞えば、子どもは善悪の区別を覚えていけます」
このとき、なぜダメなのかを説明するのであれば、短い言葉で話すのがポイント。あまり長々と話すと子どもの集中力が切れてしまい、要点がわかりづらくなります。「人のものを取るのはダメ!」のように、短い言葉で叱る方が理解は進むそうです。
親からすると心配になりがちな子どもの「内緒の行動」。とはいえ、自立心や自制心が育ってきている証としてある程度は見守りながら、ダメなことはダメとちゃんと教えてあげることが大切なのですね。
お話を聞いたのは…
日下 紀子さん
臨床心理士。教育学博士。精神科の診療所で臨床心理士として活躍後、親子のカウンセリングを行う「谷町こどもセンター」(大阪市)へ入所。現在は所長として、12名の臨床心理士と共に、日々親子の成長をサポートしている。
谷町こどもセンター
ライター紹介
近藤 浩己
1974年生まれ。ライターズオフィス「おふぃす・ともとも」のライター。トラック運転手からネイルアーティストまでさまざまな職を経験。しかし幼い頃から夢だった「書くことを仕事にしたい!」という思いが捨てきれずライターに。美容・ファッション系ライティングが得意だが、野球と柔道も好き。一児の母。
※2018年1月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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