学力や運動神経に影響する「10歳の壁」 つまずきを克服するコツとは

勉強や運動でつまずきやすくなる、親の言うことに反抗しはじめる…。「10歳の壁」とは、小学校3年生〜4年生の子どもたちに起こる変化を表した言葉です。この時期の子どもたちにはいったい何が起きているのでしょうか? また、親はどんなサポートができるのでしょうか?

10歳で起きる2種類の「壁」

9歳から10歳くらいの変化は、イモ虫から蝶に変わるくらい大きいもの。子どもから大人へと変わる過程のなかで、身体的にも心境的にも劇的に変化が起こる時期です。」

こう話してくれたのは、幼稚園児〜小学生を対象とした学習塾「花まる学習会」の代表であり、「伸び続ける子が育つお母さんの習慣」、「本当に頭がいい子の育て方」など多くの著書を持つ高濱正伸さん。

『”つ”の付くうちは神の子』という言葉があります。年齢が9つ(ここのつ)までと、10(とお)になるのとでは、子育ての仕方が変わるという意味です。子どもが変わっているのに親が変わっていないと、そこに乗り越えるべき壁ができてしまいます。せっかくイモ虫から蝶になったのに『葉っぱを食べなさい!』と言われるようなものですね。」

子どもの成長に合わせて親の意識を変えないと、親子の間に壁が生まれてしまいます。そして子どもが直面するもう1つの壁が「自信」です。

一度自信を失うと物事の上達の「壁」に

「赤ちゃんの頃は両親にかわいがられて、幼稚園や小学校低学年では家族以外のつながりができ、それぞれ閉じたコミュニティの中で子どもは自信をつけていきます。」

「10歳を過ぎて思春期になると他人とかかわる範囲も広がり、『生きるって何?』『家族って何?』と興味の範囲が広がっていくのですが、一方で周りのことも見えるようになるぶん、『嫌い』『苦手』も増えていきます。今まで無条件に持つことができていた自信を失いやすくなるのもこの時期からです。一度自信を無くしてしまうと、物事の上達の壁となってしまいます。」

自信がある子どもは好奇心が旺盛で好きなことに夢中になれる一方、自信が無い子どもは「どうせ…」とネガティブな考え方がクセになってしまい、物事への興味を失ってしまうそう。どのようにして子どもに自信を持たせるかが、「10歳の壁」を乗り越える1つのポイントとなりそうです。

学習や運動での「つまずき」を乗り越えるには?

10歳になると勉強や運動でつまずいてしまうといわれる「10歳の壁」。最近の教育カリキュラム変更などの影響で生まれた問題、と言われることもありますが、高濱さんは「現場の教師は昔から肌で感じていたこと」と言います。

「10歳以降、小学4年生〜5年生ぐらいから学習の内容が高度になるということもありますが、一番大変なのは自信を無くした子どもを教えること。失敗を引きずるようになってしまうので、『俺は苦手』『私はできない』と思い込んでしまった子どもは『苦手』を理由に勉強を避けるようになってしまいます。自分で自分の可能性を狭めてしまうのです。」

苦手と思い込むと勉強が頭に入ってこなくなる、頭に入っていないと成果が出なくなる、成果が出ないので自信を失って苦手になる…の悪循環になってしまうわけですね。この悪循環を断ち切るにはどうしたらいいのでしょうか?

『嫌い』『苦手』を口に出して言わないことです。言葉というのは怖いもので、ネガティブなことを口に出し続けると本当にできなくなってしまいます。」

そして、親がネガティブなことを言わないこともポイント。つい「うちの子は国語が苦手なんですよ」「算数が嫌いなのは遺伝かしら」などと言ってしまいますよね…。

運動のコンプレックスは、同じ運動系のジャンルで克服できる

また、運動でも「自信」がキーワードになります。高濱さんによると「何か1つでも得意な競技があれば自信につながる」そう。

「足が速い子はクラスでも人気ものになりますし、本人もとても自信になります。短距離では足が遅い子でも、がんばり屋さんならマラソンで結果を出せることがあります。水泳や体操など、何か1つの競技でもいいので、運動のコンプレックスは同じ運動系のジャンルで克服できるとよい自信につながります。親も一緒に練習するなど、サポートしてあげるといいですね。」

また、学習でも運動でも共通していえるのは、少しでも成長が見られたときにはきちんと言葉にして認めてあげることなのだとか。

「子どもたちは常に『お母さんを喜ばせたい』と思っています。結果が出たときはもちろん一緒に喜んでほしいですし、そうでない場合も小さな成長や少しの進歩を必ず見つけて、それを言葉にして伝えてあげてください。せっかく伝えても『別に』などそっけないリアクションを返すかもしれませんが、胸はいっぱいのはずです(笑)。」

成果を認めることが自信につながります。小さな「できた」を積み重ねれば、壁を乗り越えることができそうです。

10歳からは本音の付き合いを

10歳前後を境に大きく変わっていく子どもたち。親も接し方を徐々に変えていかなければいけません。10歳までの子育てが「正論」なら、10歳からは「本音」の付き合いになると高濱さんは言います。

10歳まではしつけやルールをきちんと教えていく必要があります。いわば『正論』です。ところが10歳を過ぎると正論が通じなくなり、学校やテレビの言うことにウソがあるのでは…などと考え始めます。」

親が今まで通り正論で接してしまうと、子どもは「上から目線」に思えてカチンときてしまうわけですね。

10歳を過ぎたら『本音』で接するようにしてください。同性の親同士で『大人の秘密』を持つのもおすすめです。母と娘なら過去の恋愛話、父と息子なら仕事の失敗談など、親が内面を打ち明けるようにするといいでしょう。」

学校と家以外の場所に「師匠」を作る

また、子どもの面倒をすべて親が見るのではなく、「どんどん外に出す」ことも大事なのだとか。

「10歳以降は『親には反抗するけれど、塾の先生や部活の顧問の言うことは素直に聞く』ということが起こり始めます。習い事や部活動、塾など、学校と家以外の場所に『師匠』を作るのも親の役割です。なんでも親が解決しようとするのではなく、子どもが悩みごとを相談できるような存在を外に作ってあげてください。」

子どもは日々成長していて、同じ日がずっと続くわけではありません。変化が起きるということは、きちんと成長をしている証。これから子どもが10歳を迎える場合は「こうした変化がある」ということを知っておくだけでも、あわてずに済むのではないでしょうか。

参考書籍


伸び続ける子が育つ お母さんの習慣

お話を聞いたのは…
高濱 正伸さん
花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。算数オリンピック委員会理事。
「数理的思考力」「国語力」「野外体験」を重視した、幼稚園児から小学生向けの学習教室「花まる学習会」を設立。
保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30,000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』ほか、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』『小3までに育てたい算数脳』『算数脳なぞぺー』など、著書多数。
株式会社 こうゆう

ライター紹介
井上 マサキ
1975年生まれ。小学生の娘と保育園の息子を持つ二児の父です。SE時代に会社で男性初の育児休暇を取得。フリーライターに転身後も家事育児を続け「ほぼ主夫」状態に。IT、ネット、スマホが得意分野。路線図が好きで、額縁に入れて飾るほど。

※2016年5月にいこーよで公開された記事の再掲です。

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