公衆トイレでよく見かける「いつも綺麗に使ってくださってありがとうございます」という貼り紙。実はこれ、人間の行動心理を利用した最高の言葉なんだそうです。そしてなんと、子育てにも応用できちゃうとか…!学習塾・エンピツらんどの創業者であり、『1人でできる子が育つ テキトー母さんのすすめ』の著者・立石美津子さんに詳しくお話を伺いました。
「トイレの貼り紙効果」とは?
「性悪説」の表現では、誰しも反発したくなる?
「もしも、トイレの貼り紙に 『汚く使うな!』と書かれていたら、どう感じますか?命令口調で、しかもはじめから汚く使うと決めつけられている感じがして、嫌な気持ちになりますよね。では、『綺麗に使ってください。お願いします』だったらどうでしょう?口調は丁寧ですが、やはり汚く使うことを前提でお願いされています。まだ使ってもいないうちから疑いをかけられている『性悪説』の考え方といえますよね。」
「でも、 『いつも綺麗に使ってくれてありがとうございます』と書かれていると、期待され、感謝もされて、なんだか素直に従いたくなりませんか?これが、人間の行動心理を利用したトイレの貼り紙効果です。」
確かに!同じことを伝えるにも、言い方が少し違うだけで、受け取り手の想いや行動は180度変わってしまいますね。
貼り紙効果が、なぜ子育てに生かせるの?
では、なぜこれらが子育てにも生かせるのでしょうか?まずは、先ほどのトイレの貼り紙効果を、子育てのケースに当てはめて考えてみます。
はじめから決めつけて注意しないこと
「例えば、 『散らかしてはダメよ!』と子どもに注意する。よく言ってしまいがちな表現ですが、これは、散らかすこと前提で注意をしています。『散らかさないようにしてね』も同様。『まだ散らかしていないのに!綺麗に片付けるかもしれないのに!』と不快になってしまう言い方です。場合によっては、反発してわざと散らかしてしまう子もいるかもしれませんね。」
「では、 『いつも綺麗にしてくれてありがとう。ママ嬉しいよ。今日も一緒にお片付けしようね』と言われたらどうでしょうか?大好きなママに感謝され、期待もされ、子どもは嬉しくなっちゃいますよね。自分(のしていること)を否定されていないので、気分よく片付けが始められます。」
そのほか、飲み物が入ったコップを渡すとき『こぼさないでよ!』と言ってしまうのも、はじめからこぼすこと、失敗すること前提で声がけをしているということ。命令口調で言われたら、子どももいい気分にはなりませんね。
否定的に伝えるよりも、肯定的に伝える努力を
「よく『忘れ物しないようにしようね』などと子どもに言いがちですが、この言葉の裏にも『否定形』が含まれているので要注意です。人間の脳は『○○をしてはいけない』と言われると、かえってその言葉にとらわれてしまい、逆に○○を引き起こしてしまうものです。『転んじゃダメよ』や『転ばないようにしようね』と言われると、転んじゃいけない、転ばないようにしなきゃ…ということに意識が集中してしまい、結果転んでしまう、ということは珍しくありません。
『✕✕しないように』ではなく、『○○しましょう!』という肯定形で子どもに伝えることで、望ましい結果が得られるようになります。」
親としては、どうしても先回りして「✕✕しないで」と注意してしまいますが、この言葉には、はじめから子どもが失敗すると決めつけている、そして否定形の意味合いが含まれていたのですね。もっと子どもを信じてあげることが必要なようです。
視覚的に訴えることの効果
それでは、貼り紙で伝えることには、どんな意味があるのでしょうか?
「人間の脳で処理される感覚の9割近くは、目から入る情報だと言われています。授業中に先生が板書をしたり、企業の発表会などでパワーポイントを使ったりするのも、このためです。視覚的に訴えかけることで、人は耳だけで聞くよりも鮮明に記憶することができるのです。そういった意味で、貼り紙はとても効果的だといえます。」
そういえば、幼稚園などでは、片付ける場所にその玩具の写真が貼ってあります。「○○は黄色い箱に片付けてね」と100回言うよりも、黄色い箱に○○の写真を貼っておくだけで、子どもは1回で片付け場所を理解し、行動に移せるようになるのだそうです。まさに「百聞は一見にしかず」ですね。
実際に、子育てに生かすための実例は?
では実際に、今日からできる、家庭での「子育ての貼り紙効果」には、どんな方法があるのでしょうか?
低年齢でもわかりやすいやり方を、立石さんに挙げてもらいました。
- 片付け場所に、何を入れれば良いかがわかる写真を貼る
- トイレの壁に「トイレの水は1回だけ流しましょう」と書いた紙を貼る
- 玄関の床に足型の紙を貼り、「靴はこの上に置こうね」と伝えておく
貼り紙の内容は、できるだけ具体的に書く
「せっかくの貼り紙も、長い間貼り続けたままでは、視覚的に慣れてしまい、ただの壁紙になってしまいます。
定期的に貼る場所を変えたり、写真を変えたりすると効果的です。できるようになったら、その貼り紙は剥がすことも必要ですね。」
「もうひとつ大切なのは、 貼り紙に書く言葉は『具体的に』ということ。単に『キレイに片付けましょう』と書くだけでは、『キレイに』という表現があいまいで、子どもには理解しづらいです。片付いた状態の写真や、片付けて欲しい順番に並べた写真を貼って、ひと目でどんな状態にすればよいかわかるような貼り紙にしましょう。歯を綺麗に磨いてほしい場合は、洗面台に『しっかり歯を磨きましょう』と貼るのではなく、『1分間歯を磨きましょう』など、具体的な数字を書くこと。一緒にキッチンタイマーを置いて1分セットするように習慣づけると、自然に1分の感覚が身につきます。」
いかがでしたか?視覚的に訴えかけ、そしてプラスの表現で声がけすることで、子どもは進んで実行するようになり、こちらのストレスも半減しそうです! ぜひご家庭で試してみてくださいね。
※参考書籍
お話を聞いたのは…
立石 美津子さん
学習塾「エンピツらんど」の創業者。講演家。自閉症児を育てる母親。著書は『小学校に入る前に親がやってはいけない115のこと』、『読み書き算数ができる子にするために親がやってはいけない104のこと』、『心と頭がすくすく育つ読み聞かせ』、『はずれ先生にあたったとき読む本』、『1人でできる子が育つ テキトー母さんのすすめ』等。愛に溢れた毒舌ブログが話題でファンも多い。
立石美津子オフィシャルサイト
ライター紹介
水谷 映美
1979年生まれ。出版社勤務、受付嬢、社長秘書を経て、現在はwebを中心にライターとして活動中。男・女・女の3児の母。気になることは何でも試してみないと気が済まない典型的B型女子。子育て世代のリアルな声を反映した記事を得意としている。
※こちらは2015年3月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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