子どもを褒めるポイントは「垂直比較」!
未来:日常的に子どもを褒めるには、親自身の自己肯定感を高めることが必須だということがわかりました。実際に子どもを褒めるときの具体的なポイントはありますか?
「一番大切なのは子どものことをよく見て、その子どもが持っているものを伸ばすこと。褒めるということは、比較することでもあります。ここで重要なのは、他の子どもと比べるのではなく、その子自身の過去と比べるということなんです」
未来:ついついよその子どもや兄弟と比べてしまいがちですよね。
「他人と比べてプラスになることは一つもありません。それどころか子どもの自己肯定感を大きく下げてしまいます。私は他人と比べることを『水平比較』、それに対して過去のその子自身と比べることを『垂直比較』と呼んでいますが、子どもは垂直に比較することが大切なんです。子どもの3日前、1週間前、1カ月前と比較して、前よりもよくなったところを見つけてあげましょう」
「じつはこれは、子どもが赤ちゃんのときは皆さんできていることなんですよね。寝返りができた、ハイハイができた、つかまり立ちができるようになったなど、赤ちゃんのときは垂直の成長の中に喜びを見出していたはずです」
未来:たしかに…いつしかその気持ちを忘れて、ついつい他人と比べてしまっているような気がします。
「垂直比較ができるのは親だけの特権なんですよ。親はその子どもの全てを見ている唯一の存在です。学校や塾の先生も生徒の成長過程を見ることはできますが、全てを見ているわけではないので…。なかなか褒めるところが見つからないなどと仰る親御さんもよくいますが、それは親の観察力が足りないだけ。前はできなかったこんなことができるようになったと褒めてあげられるのは親だけなんですよ」
未来:他人ではなく過去の子ども自身と比較して褒めるということを意識するだけでも、子どもを褒める機会を格段に増やせそうな気がします。
「あとは、具体的に褒めることが大切です。ただ単に『かわいい』『すごい』では、子どもは納得しません。『卵がきれいに割れたね』など具体的に褒めると、子どもは褒められている内容を容易に納得できます。そうすることで子ども自身が成長を実感し、それが自己肯定感や自信に繋がるのです」
口を出さない、手は出さない、目では見ている
未来:普段の生活の中で子どものことをより具体的に褒めるためにも、さまざまなことにチャレンジさせたり、子どもをよく観察することが大切なんだと感じました。
「子育てのポイントは、最初に手間をかけて早く自立させること。とくに家事などの手伝いをやらせて、何でも自分1人でできるようにすることが理想です。当然最初はうまくできないので手間がかかります。子どもが小さな頃は親も働き盛りで忙しく時間がないので、自分でやった方が早いと考えてしまいがちですが、ここでしっかりと手間をかけることが後の子育てを楽にするのです」
未来:それは自分のことを自分でできるようになるからという意味でしょうか?
「それも一つですが、子どもは好奇心の塊です。その好奇心を育むためには、何でも『ダメ』と言わずにまずはやらせてみることが大切。小さな頃に時間を投資して子どもの好奇心を育くむことができれば、放っておいてもどんどん自分で好きなことを見つけて知識を積んでいける子になります」
未来:子どもの好奇心の芽を潰さないためにも、時間を投資してどんどんチャレンジさせることが大切ということですね。
「そうです。やってみてうまくいかなければ、子どもはその原因を考えます。そうして自分で試行錯誤しながら、さまざまなことにチャレンジできるようになるのです。だから失敗する経験というのはとても大切で、小さなうちにたくさん痛い目にあって学ばせた方がいいんです」
未来:なるほど。たしかに子どもを痛い目にあわせる勇気がなく、つい「ダメ」と言ってしまう親は多そうです。
「道路に飛び出すなど本当に危険なことは一歩も譲ってはいけませんが、そうでないときは転んだっていいんです。その経験がないと危険はわかりません。公園で遊具で遊ぶときも一度くらい怪我したっていい。そうすることで、子どもは考えながら大胆かつ慎重な行動がとれるようになります。親が何でも先回りして失敗する経験を奪ってしまうと、どんどん失敗を恐れてチャレンジできなくなってしまう。だからこそ、できるだけ小さなうちに失敗の経験をさせることが重要なんです」
未来:小さな子どものチャレンジを見守るのには、時間も勇気も必要ですが、その手間をかけることが将来への投資になるということなんですね。
「子育てなんて親が関与できるのは、せいぜい12歳くらいまでです。そう思うと12年なんてあっという間ですから、目一杯時間と手間をかけてあげてください」
未来:12歳というと小学校を卒業するくらいですよね。子離れ・親離れするには早すぎる気がするのですが…。
「そんなことはありません。この頃には生き物としての本能が、子どもに『親離れせよ』とささやきます。親はいつまでも生きてはいないから、早く自分で獲物が取れる(自立して生きていける)ようになれと言うのが本能の叫びです。とはいえ、親の保護下にあった自分が獲物を取りに行くのには不安があります。その不安と本能の葛藤が、一番甘えやすい親への反抗という形で現れるんですね」
「一方、親には子離れの本能がありません。ほとんどの動物は子どもが自分で餌を取れるようになる頃には死んでしまうので、子離れという本能は必要ないんです。だから子どもが12歳を過ぎたら、親は意識して子離れを考えた方がいい。親が子離れせず、子どもの親離れを邪魔していると、それこそ子どもの自立を妨げることになりますから」
「開成では『口を出さない、手は出さない、目では見ている』を教師のモットーとしています。課外活動などでも教師はできるだけ口を挟まず、生徒に自主的に取り組ませることを大切にしています。こうして自ら考えて実現することの面白さを体感することで、さまざまなことを自分で考えて行動できるようになるのです。『自分でできた』と感じる機会を多く作ることは、自己肯定感を育むためにも大切です」
未来:自分の頭で考えて行動できる子どもにするためにも、小さなうちに手間をかけて好奇心を育み、ある程度の年齢になったら子離れを意識しながら子どもを見守ることが大切なんですね。