「弱点は克服するな、長所は伸ばすな」中村元さんの逆転の発想が強いワケ

つくる人
たゆまぬ努力を続け、生産品に愛情を注ぎ、好奇心や探求心、情熱を常に持って暮らしている「つくる人」にお話を伺い、人として生きていくのに必要なものに迫るインタビュー。

サンシャイン水族館 中村元 水族館 水族館プロデューサー 水塊

(写真提供:中村元さん)

魚に詳しくないからこそ、そこで目立つことができる方法を考えた

未来:でも普通、長所で勝負したいと思いますよね(笑)

それは長所を使う場所を選べば良いんです、自分の長所における天才のいない場所を探す。例えば、僕は大学でマーケティングを専攻してたから、卒業する時、本当はメディアにいきたかったんです。あの頃、マスメディア系って高嶺の花でね。でも、僕は勉強ダメ、成績も悪い。卒業時に単位がきれいにぴったりオール可だったくらいだから(笑)。

その時、子どもの頃、読書感想文で三重県2等賞だったこと思い出して、天才秀才だらけのメディアに入ったら2位どころかそれこそビリやん、と思いました(笑)。それで、メディアでなくて、水族館に就職しました。それに、水族館もメディアじゃないかと自分に言い聞かせてね。

水族館でお客さんの観察をしているのは僕だけ

水族館で飼育係に配属されたら、周りは魚好きの魚類学や生物学を究めてきた人ばかり。その中で当然僕は落ちこぼれです。それで、僕は水族館でお客さんの研究をしてみました。後ろからお客さんを観察したり。

大学で専攻していたマーケティングでいうと、「行動調査」なんですけど、どの水槽で人が多いかを観察していると、お客さんは暗い水槽より明るい水槽が好き、さらにとりわけ青色の美しい水槽が好きとかわかるわけです。

大学でマーケティングとか、行動心理とか、卒論の時にほんのちょっと勉強しただけなんだけど、そのちょっとだけ知ってることがすごく役に立ちました何しろ水族館でそんなことやっているのは僕だけでしたから。その時に人の心理の方が重要だと思いました。お客さんの気持ちになって水族館を見ることが重要。魚に詳しくないという弱点は裏返せば、お客さんの気持ちになれるのは自分だけという強みじゃないですか。そしてそういう場所でなら、ちょっとだけ持ってる知識や長所でも強力な武器になる。

サンシャイン水族館 中村元 水族館 水族館プロデューサー

(写真提供:中村元さん)

詳しい人には当たり前すぎてお客さんの視点になれない

実は凡才ながら自分の長所だと思ってたメディア力も、お魚博士ばかりの水族館だから実績を上げられたんです。しかもそのライバルは全国の水族館にもいなくて、自分が全国最強になれちゃった(笑)。水族館でイルカの一種スナメリが出産した時、その出産シーンのビデオ撮影に挑戦したら上手く撮れて、NHKに送ったんです。

鯨類の出産映像なんて、世界で初めてじゃないか?ってことでそれはもう大々的に放送されてね。全ての局で同様のことが起こりました。 すると、それまでスナメリのポスターを作ったりして宣伝してもお客さんは来なかったけど、テレビで僕の撮影した映像が流れただけで、次の週末からはお客さんがどっと増えたんですよ。

コレいける!テレビ見て人が来たあれをもう一度!って思って(笑)、ビデオを撮ってはテレビ局に送ったんです。そこから自分が企画室長になって全国の水族館や動物園で初となる、広報部署の開設に至りました。そしたらテレビは僕が流すネタを面白いように取り上げてくれて、その頃テレビの水族館のネタの9割が僕のいた鳥羽水族館関連だったんじゃないですかね

水族館の飼育係には、そんなこと考えられないんです。生物の知識がありすぎて、お客さんの視点になれない。例えば、タツノオトシゴって、魚なのにメスが卵を生むんじゃなくて、オスが子どもの形で生むんですよ。不思議でしょ!お魚博士には当たり前過ぎて、不思議とか面白いって思えないらしいんですよね。

撮影協力:サンシャイン水族館

インタビューアーのコメント
長所とは、ある程度努力をしなくてもできることであり、長所を活かすには他にその「天才」がいない場所を選ぶといいという中村さんの言葉が印象的でした。得意ではないからこそ、得意な人とは違う発想ができるという中村さんのアドバイスも、私たちが進路や勉強、仕事などで悩んだ時の大きなヒントになるのではないでしょうか。

今までの記事を読む>前編「好奇心を育み、多様性を体験させる水族館の秘密指令とは」
続きの記事を読む>後編 新しいアイディアは「常識は間違っている」と思うことから始まる

中村元さんプロフィール 中村元さんは、飼育員、副館長などを経て21年間、三重県にある「鳥羽水族館」で水族館の仕事に従事。その後は、日本で唯一の「水族館プロデューサー」として、サンシャイン水族館、マリホ水族館、北の大地の水族館、新江ノ島水族館など多数の水族館の再建やリニューアルを手掛ける。水族館に関する一般向けの書籍を多数執筆をする傍ら、夢の扉+(TBS)、マツコの知らない世界(TBS)などテレビにも多数出演。


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中学受験を経験した辞典体質の高1息子とダンスに夢中な和み系の小5娘の子育て中。仕事モードと同じく、効率とマルチタスクを家族にもつい求めてしまうことを時々反省している。稀に見るほどの方向音痴。日記を毎日書かないと落ち着かないため、いつでも持ち歩いている。

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