母の座右の銘は「まずいことを楽しみなさい」
未来:子どもの頃にご両親からよく言われていたことはなんですか?
母親がよく座右の銘として「まずいことを楽しみなさい」ってすごく言っていましたね。
未来:「まずい」というのは料理のことですか? それともピンチのことでしょうか?
料理のほうです。僕自身が料理を食べて「まずい」と言ったら「まずいことを楽しみなさい」って(笑)。この言葉があるおかげで、全然できていないことや、クオリティが高いことが必ずしも目標にならなくてもいいと思うようになりました。
未来:誰にも得手不得手はありますし、すべてのことが上手にできる人って、そうそういないですからね。
例えば「自然があること」ってみんなが「素晴らしい」って言いますけど、じつは、みんなが「いい」と思う自然って、見晴らしがよくて植物がきれいに管理されていて、危ないものも撤去されていて…とすごく手入れされたものなんです。だから、うちの地元の自然なんて、そういう意味では「ぜんぜんよくない自然」です(笑)。
未来:それはそうかも…手入れされていない自然は、あるい意味で「まずい」ものかもしれないですね。
でも、子どものうちはそこから遊びを見つけ出したりして、「まずいを楽しむ」を自然にやっていたんですよね。
未来:「まずい」ということは、普通なら不平とか不満になっちゃうのですが「おもしろくなってきたぞ!」って言えるようになったら、人生おもしろいことだらけですよね。何気ない一言のようで、生き方そのものに影響するような言葉です。
「おもしろがっている人がやってくる」仕事がいい
未来:子どもの頃から「まずいを楽しむ」習慣ができていた河田さんが、建築家になろうと思ったきっかけは?
通学で1時間かけて道路を歩いて帰っていたとき、道路の色がグレーなのがマジでイヤだったんですよ。
未来:道路がまっすぐなだけでなく、色まで気になっていたんですね(笑)。
ええ、ホントに「道路がグレーである意味がわからない」と(笑)。それで母に聞いたら「建築家って人が決めている」と言っていたので「これしかない!」と思いました。よくよく調べたら道路の色を決めているのは国土交通省で、それを変えるとなれば政治家になる必要があったんですけど(笑)。
でも、道路だけでなく昔から「建物の向きや色を変えたい」と思うことが多くて。駅前のロータリーを歩いていたら、ホテルの入口が駅のほうに向いていないのが気になったり、銅像の角度を変えたくなったり(笑)。

未来:建築家を知ったきっかけとしては、やや的をはずしていたかもしれませんが、結果として河田さんがやりたいことは「建築家」の仕事に合っていたんですね。
そうですね。あと、職業を選ぶときに弁護士やお医者さんなど「困っている人がくる」仕事よりも、僕は「おもしろがっている人がやってくる」仕事のほうがいいなと思いました。楽しく未来を語れる仕事が好きなんです。そうやって考えたら「これは、もう建築家しかないなと」。
趣味は「時間とクオリティに制約がない」
未来:河田さんは、みんなでわいわいとおもしろいことを仕掛けていきたいタイプなんですね。
そうです。楽しく仕事をする方法を考えていたとき「趣味ってなんであんなに楽しく時間を忘れてできるのかな?」と思って、「趣味は時間とクオリティに制約がない」というのに気がついたんです。それで自分たちの仕事もなるべく「時間とクオリティ」を求めないようにしたら、理想的に楽しく働けるのではないかと思っています。
未来:とはいえ「時間」は納期がどうしても関わってきますし「クオリティ」も重要ですよね
そう。「時間とクオリティに制約がない」を理想として持ちつつ、もう少し手前で置き換えるとしたら「時間とクオリティを自分で決められる」ということかなと思います。「クオリティ」は高ければいいというのは一概には言えなくて…例えば、弊社の近所に夫婦でやっている蕎麦屋さんがありまして、お店の雰囲気からメニュー、接客、味、料金が完璧で、僕にとっては「最高に美味しい体験」ができるんです。
ひょっとしたらビジネスとしては大きく儲かっていないかもしれないのですが、日常的に何かを作って、提供して、提供された人が喜んで、継続していけるっていうことが最高だと思います。
未来:訪れる場所や人の要望によって「求めているクオリティ」が違うということですね。冒頭でお話いただいた「チームラボ 学ぶ!未来の遊園地」のイベントも、超大型施設には及ばないけど各地の美術館でできる規模で「チームラボ」のコンテンツを楽しめていることにもつながっていると思います。建築家としてお仕事をされているうえで、いつも考えていることは?
「空間を変えることで人の感情って変わる」ということですね。まず空間を変えて、みんなの気持ちを変えて、楽しくしたら、絶対楽しい社会になるということをいつも考えています。
アイデアが出なかったことはない
未来:河田さんは日々楽しくお仕事をされている様子なので、少し意地悪な質問になりますが、仕事の面で困難を突破するときに支えになったことはありますか?
(しばらく考えて)あまり聞かれたことがない質問ですね。困難なことって何かあったかなぁ…。思いつかないですね。
未来:困難なことがないなんてあるんでしょうか(笑)。例えばクライアントに要望にあったアイデアが出てこないとか。
あっ、アイデアが出てこないことはないです。
未来:えっ…それはどうしてでしょう?
アイデアが出なかったことは今までないです。1人ではなく、チームのみんなで考えながらモノを作る仕事だから、困ったことはないですね。アイデアが出ないことも含めて、一般的にピンチと呼ばれるものはとらえ方によっては、じつはそうではないと思うんです。
未来:とらえ方によってはそうではないというと?
京都の大学に通っていたとき、休日に友だちと待ち合わせをしていて、3時間遅れてやってきたことがあるんです。
未来:3時間!
「なんで遅れたの?」って聞いたら、友だちは天気がよかったから京都市を流れる鴨川沿いを歩いて待ち合わせ場所に行こうと。それで「鴨川で見たことがないキレイな鳥がいて、それを調べに本屋に行っていた」って言うんです。
未来:普通だと、待ち合わせしていることもあってそこまではしないですよね。
「なんで本屋にまで行って調べたの?」って聞いたら「だってお前、その鳥の話をしたら『どんな鳥か絶対に気になる!』って言うかと思って」って(笑)。それを聞いたら「まあ、そうだよなぁ」と。
未来:なるほど、それは河田さんのことをよく知っている友だちならではのお話ですね(笑)。
もうそうなると、待ち合わせにきちんと来たほうがいいのか、3時間遅れても僕が絶対興味を持つ謎を解決したほうがいいのか、どちらが正解かわからない(笑)。僕にとっては、その話が聞けただけで3時間待ったかいがあったなあと。でも、さすがに3時間かかるのは長いなと思って「本屋以外にどこかへ寄ったでしょ?」って聞いたら「まあ、確かに喉が渇いたんでお茶はした」と(笑)。一見するとマイナスに感じるようなことでも、見方を変えると「生きていて楽しい」と思えることがたくさんありますね。
さまざまな「なりたい感情」を作り出せるような建物を
未来:河田さんが仕事をしているなかで一番大事にしていることは?
僕が思う建築家の定義は「とにかく、みんなのために、いろんな人が楽しくなったり、発想したり、さまざまな『なりたい感情』を作り出せるような建物を作る職業」です。それに対してきちんと向き合って考えることですね。あえて言葉にするなら「誇り」なのかなと。
現実には「時間とクオリティ」の制限があるので、なかなか理想通りにできないこともあります。でも「建築家としての誇り」を失わなければ、また挑戦して、少しずつでも前に進めます。「建築家としてのプライドや誇りがなくなったら終わり」ということは自分でも思うし、周りにもよく言っています。
未来:河田さんが言う「誇り」とはまさに目標に向かって「やり抜く力」であり、建築家として日々精進する源になっているんですね!
通学路が道路だったことも、周囲が「まずい」自然だらけだったことも、少年時代の河田さんにとっては好奇心や想像力、「こうしたい」という強い気持ちを育む場になっていたんですよね。そんな河田さんが設計した保育園や施設を体験した子どもたちが、同じように好奇心や想像力を発揮して多様性、空間把握能力を身につけていったら、将来の道路は歩くだけでもっと楽しいものになっているかもしれませんね。「建物のデザインをつくる人」である河田さんは「子どもの未来を建物からつくる人」でした(KAZ)。
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