ねこ娘には「変化」が必要だった

ねこ娘のデザインの変化
(C)水木プロ・東映アニメーション (C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
未来:第6期では鬼太郎の仲間の妖怪「ねこ娘」の等身が高くなったことも話題になりました。これはどのような意図からなのでしょうか?
それは「ゲゲゲの鬼太郎」第6期のテーマが「人間と妖怪の境界(はざま)で、巻き起こるトラブルや戦いを鬼太郎がどう捌いていくか」ということにつながります。第6期の鬼太郎は妖怪バスターではなく、「どちらが悪いか?」を判断して「鬼太郎の考える平和な世界のためにがんばる」という宿命を持ったキャラクターなんです。
鬼太郎は妖怪の男の子なので「同じ目線(立場)で一緒に悩んでくれる人間の女の子が必要」になり、ねこ娘は「妖怪」なので、その役ができません。こうして「犬山まな」が誕生しました。じつは第3期にも人間のヒロイン「天童ユメコ」がいて、ねこ娘と鬼太郎と若干三角関係になったのですが、結果的にはユメコちゃんがヒロインに見えたという印象があって、それを避けるためにも「物理的な等身や感情、視線の高さも異なる存在としてねこ娘を描こう」と。
そこからたくさん議論していくなかで「等身を上げてみたら?」という話になり、フジテレビ側からも「思い切って上げましょう」という意見もいただいて今のデザインになりました。それでも水木プロダクションに許可をもらいにいくときはとても緊張しました…。
未来:水木プロダクションさんの反応はいかがでしたか?
「いいですよ。多少違和感を感じますが、東映アニメーションさんを信じます」と。これまで50年にわたって「ゲゲゲの鬼太郎」を作り上げてきた信頼のおかげです。もちろん、みなさまに受け入れていただいたのは、ただデザインが変更されただけでなく、設定やキャラクターの動かし方、声を担当された庄司宇芽香さんの演技も大きいと思います。
例えば、第6期のねこ娘は接近戦が得意で、近距離だけなら鬼太郎をしのぐ活躍を見せています。じつは鬼太郎の攻撃手段は「髪の毛針」「ちゃんちゃんこ」「リモコン下駄」など中距離戦向きなものが多いんですね。そこで鬼太郎より前に出て、接近戦で戦うねこ娘を描いたことは今の時代に合った存在になったんだと思います。
未来:確かに女性が守られるだけでなく、実際に戦う強さを持っているのは、今の時代では当たり前の光景です。そこがアニメを見た人たちにも受け入れられた要因のひとつになったんですね。ねこ娘以外のキャラクターデザインを大きく変更しようとは思わなかったのでしょうか?
あくまで水木先生のキャラクターをお借りしているという、リスペクトを持ってアニメーションを作っていますので、やはり大幅に変えるのは考えにくいですね。また、原作があるものの場合、オリジナルでストーリーを作るだけでも反発されることがある時代です。ねこ娘の等身を上げるだけでも、とても勇気が必要な決断でした。
「見えてる世界がすべてじゃない」
未来:現代の人々にとって、妖怪はどんな存在でどんな愛され方をしているとお思いでしょうか?
「目には見えないけど、昔からずっと一緒にいるもの」でしょうか。じつはアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期のキャッチコピーは「見えてる世界がすべてじゃない。見えないモノもいるんだ…ほら、君の後ろの暗闇に…」で、鬼太郎が毎回このセリフを言うんですね。
実際、東京にいると夜になってもあまり暗くないんですよね。でも、地方にいったときに夜の暗闇の深さがすごいときがあって。「これは何かいるかもしれない」って五感に訴えてくることがあるんです。それから悲しいときや怒ったときなど、自分が「いつもとは違う自分になっている」のを感じるときがあります。そういえば新型コロナウイルスも「見えないけど、そこにいるかもしれない」ものですよね。
未来:確かに、ウイルスなどの小さなものや、人間の奥深くにある複雑な感情なども、いつも「君の後ろの暗闇に」いるのに、目には見えないですね。そういうものは世の中にたくさんあって、それをイメージとして具現化するために妖怪がいるのかも…とも考えられます。水木先生が「いたずらをするけど、どこか憎めなくて、かわいいところがある」ものとして妖怪を描かれているのは、そのような見えないものと共存するための知恵や、弱さを持ちながらも生きていく人間への深い愛情が表れているからではないかと思いました。
余談ですが「妖怪」という言葉は、海外では訳すのが難しいと言われています。「モンスター」だと「怪物」ですし、「ゴースト」や「フェアリー」とも「エレメント」とも違う。でも、中国や台湾、韓国では理解してもらえる部分がある。仏教や漢字の文化の影響もあるのかもしれません。
未来:妖怪という「いいものでも悪いものでもない」というあいまいな定義を日本では受け入れられやすい文化だったことも、妖怪が身近に感じられて愛されている理由の1つですね。「目には見えないけど、昔からずっと一緒にいるもの」と考えると妖怪が仲間のように思えてきますね!
ついうっかり悪いことをしてしまうのを「魔が差す」と言いますが、おそらく昔の人は自分の中に出てきた「負の感情」や「見えないからこその怖さ」を妖怪という形にして存在を明らかにすることで、追い払ったり退治したり、客観的に対峙したりできるようにしたのでしょう。そこは人間自身が生み出した、ある意味で分身のようなものですから、どこか親しみが残っているんです。水木しげる先生が妖怪が持っていた「親しみ」を感じ取り、愛情を注いで「昇華」させ、さらに先生の想いをアニメという形で再び「昇華」したことで、より多くの人たちに親しみやすい存在として広がり、世代を越えて受け入れられていったことではないでしょうか。科学が発達した現代でも、目に見えないものはたくさんあって、新しい妖怪が日々生まれていると思います。「ひょっとしたら誰にも気づかれていないけど、現代にもこんな妖怪がいるかも!?」と子どもと一緒に想像して遊んでみるのも、相手の気持ちを考えたり、共感する気持ちが育つきっかけになりそうですね。
「ゲゲゲ忌2020」が11月21日から開催
調布市では名誉市民・水木しげる先生の功績をたたえ、命日の11月30日を「ゲゲゲ忌」として、水木しげるさんゆかりの地を巡るスタンプラリーや、コスプレイベント、ウォーキングイベントなどを11月21日(土)~30日(月)まで開催しています。
なかでも「ゲゲゲ忌2020 アニメ特別上映会」ではアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の第4期~6期および「悪魔くん」を特別上映! 23日(月・祝日)にはアマビエが活躍するお話も上映されます。
また第4期から6期のメインキャスト(声優)やプロデューサーが登壇するトークショーでは、インタビューに答えていただいた永富プロデューサーもMC兼任で登場します。また、11月21日(土)と29日(日)はキャラクターショーになっており、子どもと一緒に参加しやすい内容です。
会場はイオンシネマ シアタス調布に加え、インターネットからのストリーミング配信にも対応しています。シアタス調布でのチケット一般発売は11月17日(火)10:00~19日(木)18:00まで! ストリーミング配信チケットは好評発売中! ※アーカイブは各公演1週間後の23:59まで視聴可能です。
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