不朽の名作から最新作まで、子どもたちの「ココロのスキル」をはぐくむ絵本を紹介するコラム【人生で出会う絵本】。今回は繊細なタッチのイラストと温かいストーリーが印象的な『わすれられないおくりもの』です。
みどころ
みなさんには子どものころ苦手だったり、怖かったりしたものがありますか?
私は子どものころ「風」が苦手でした。ビューっと吹く、あの「風」です。窓がガタガタと揺れたり、空がゴオォと唸ったり……もともと大きな音が苦手だったこともありますが、風が吹くと何か恐ろしいことが起こりそうな気がしたからです。小学1年生の昼休みには、「風が吹いてるから」という理由で外に出ず、ひとり教室にこもっていたことも。担任の先生にはずいぶん心配されたなあ。
ちょっと風が強い程度の日でもこの調子なので、台風がこようものならまあ大変。一日中、布団をかぶって耳をふさぐ私を見て、両親はすっかりあきれ顔でした。
そんな私の風嫌いを変えてくれたのは、長崎に住んでいたおばあちゃんでした。私が住む埼玉の家に遊びに来ていたおばあちゃんと散歩へ出かけた時のこと。その日は風が強く、イヤイヤ歩いている私に彼女がこんなことを言ったのです。
「風さんは、ビューっと吹くのがお仕事だからねえ」
この何気ない一言がきっかけで、ウソみたいに、私の風嫌いは治ってしまいました。どうしてだか、ものすごく腑に落ちて、「仕事なら仕方ないか」と冷静に思ったことを今でもはっきり覚えています。仕事でいつも帰りの遅い父を見ていたからかもしれません。
風は自分がやるべき仕事を全うしているだけで、私を怖がらせようとしているんじゃないーー。ものの見方を180度変えてくれたおばあちゃんのおかげで、壁をひとつ乗り越えることができた経験でした。
『わすれられないおくりもの』を読んで、みんなに愛されたアナグマと私のおばあちゃんが重なりました。おばあちゃんはもう亡くなってしまいましたが、私の心の中にいつまでも残っていて、すぐそばにはいないけれど、いつも私を勇気づけてくれて温かい気持ちにしてくれます。
本書で扱われている「死」というテーマは、もしかすると子どもたちにはあまりピンとこないかもしれません。でもこの作品が伝える“大切な人を失った悲しみの乗り越え方”は、子どもたちが大人になった時にそっと力になってくれるはずです。
あらすじ(出版社Webサイトより)
野原のみんな、ひとりひとりにアナグマが残していったすてきなおくりものとは・・・・・!? アナグマが死んだ。でも、みんなの心の中で、大すきだったアナグマは生きている。アナグマは、もの知りでかしこく、みんなからとてもたよりにされていた。冬のはじめ、アナグマは死んだ。かけがえのない友を失った悲しみで、みんなはどうしていいかわからない・・・。友だちの素晴しさ、生きるためのちえやくふうを伝えあっていくことの大切さを語り、心にしみる感動をのこす絵本です。
書名:わすれられないおくりもの
作者:スーザン・バーレイ
出版社: 評論社
発行日: 1986 年 10 月
ISBN: 978-4566002647
サイズ:26 x 21.4 x 1 cm
ページ数:26ページ