次々と新作が発行される中で、何十年と読み継がれる作品も多い絵本。今回は、そんな「ロングセラー絵本」の共通点や、カテゴリー別の「おすすめ作品」を紹介します。タイトルや表紙だけ知っているという人は、この機会にぜひ子どもと一緒に読んでみてください!
ロングセラー絵本には共通点がある?
今回お話を聞いたのは、「絵本の100年と未来研究会」の主宰などを通じて絵本の魅力を伝える「絵本コーディネーター」の東條知美さん。まずは、「ロングセラー絵本の共通点」を伺ってみました。
共通点1:テーマに普遍性がある
「時代や国を越えて愛される名作で描かれるのは、『やさしさ』『勇気』『愛』『いのち』といった、いつの時代も変わらない普遍的なテーマです。時々の流行に支配されないため、幅広い層に支持され、共感され続けています」
紹介絵本:「ちいさいおうち」(1954年)
■どんなお話?
静かな田舎に、ちいさいおうちがたっていました。でも、時代が変わるにつれ、ちいさいおうちのまわりにはビルが建ち並びます。人があふれ、夜のない空間になったのです。昔を懐かしみ嘆くちいさいおうちを、かつてこのおうちを建てた人の子孫が見つけて…。
■注目ポイント
「子どもに楽しく、大人には『幸せ』『環境破壊』といったテーマをじっくりと考えさせる、まさに絵本の王道をいく作品です。絵は細部にいたるまでしっかりと描かれ、たっぷりと物語を伝えています」
共通点2:ワクワクするような「体験」がある
「子どもにとって、絵本の中で起きていることは『今まさに目の前で起こっていること』。絵本の世界に入り込んだとき、子どもは、お話の登場人物とともに冒険し、笑います。現実の世界に戻ったときに、『また出かけたいな』と思わせる。そんな絵本を、子どもたちは何度でも繰り返し読みたがります」
紹介絵本:「ぐりとぐら」(1967年)
■どんなお話?
のねずみとぐりとぐらが、森で大きなたまごをみつけました。「ぼくらのなまえはぐりとぐら このよでいちばんすきなのは おりょうりすること たべること」。料理が大好きな2人は、一緒に歌いながら特大のカステラをつくります。
■ここに注目!
「ぐりとぐらの2人は、見事にふんわりと焼きあげたカステラを森の仲間たちにふるまいます。そのおいしそうなこと! 楽しそうなこと!」
共通点3:フレーズが自然と耳に残る
「子どもが絵本に出会うとき、耳で言葉(音)を受け止めることからはじまります。語りのリズムが心地よい作品、くり返されるフレーズが自然と耳に残る作品、絵と言葉の調和が美しく響き合う作品は、何度でも絵本の世界に足を運びたくなります」
紹介絵本:「三びきのやぎのがらがらどん」(1965年)
■どんなお話?
ある日、三びきのやぎのがらがらどんが、山の草場を目指して登っていました。途中の谷川の橋の下には、大きなトロルが住んでいて、やぎたちを食べようとします。最初に、小さいやぎのがらがらどんが橋を渡ろうとするのですが…。
■ここに注目!
「迫力のある絵と、繰り返される軽快でリズミカルな言葉は、何回読んでも子どもを飽きさせません」
ロングセラー絵本の共通点は、「テーマ」「体験」「リズム」の3つ。自分の子ども時代の絵本体験を思い出しても納得ではないでしょうか?
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(1)超名作! 親子3世代で読み継がれる絵本編
まずは、50年以上の歴史を持つ絵本のなかから、3作品を紹介します。60年以上にわたって読まれ続けている作品も!
「ちいさなうさこちゃん」(1965年)
■どんなお話?
なかよしうさぎのふわふわさんと、ふわおくさん。ある日、2人のもとに天使がやってきて、かわいい赤ちゃんが生まれました。それがうさこちゃん。動物たちが、うさこちゃんを見に次々とやってきます。でもうさこちゃんは疲れてしまい、やがてこっくりこっくり…。
■ここに注目!
「『ミッフィー』の名前で親しまれている『うさこちゃん』シリーズの第1作です。シンプルな言葉と構成で、子どもにも身近で親しみやすい生活を描くところに、作者ディック・ブルーナのしっかりとした哲学を感じます」
「ひとまねこざる」(1954年)
■どんなお話?
おさるのジョージはとっても知りたがり。ある日、動物園から抜け出し、バスの背に乗って街へとやって来ました。レストランでのお皿ふき、ビルの窓ふきなどいろいろな仕事に挑戦しますが、失敗ばかり。でも最後には…?
■ここに注目!
「好奇心いっぱいで、失敗も多いジョージは『本来の子ども』そのものです。そして、どんなにメチャクチャをしても、最後にはおじさんの元へ帰っていく…。子どもにとっての心理的な安心感が、人気の秘訣ではないでしょうか」
「だるまちゃんとてんぐちゃん」(1967年)
■どんなお話?
てんぐちゃんの持ち物がほしくてたまらない、だるまちゃん。うちわ、かんむり、くつ…。お父さんが家中から見つけてきてくれるものは、どれも気に入りません。そのたびにそっくりなものを自分で見つけるのですが、最後には長い鼻がほしくなってしまいました。
■ここに注目!
「子どもは真似っこ遊びが大好き! さまざまなモチーフが細かく描かれた場面は見た目にも楽しく、それだけで子どもたちは夢中になります」
(2)懐かしい! パパママが子どものころに読んだ絵本編
いま子育て中のパパママと同世代の絵本も、名作がたくさんです! 3作品を紹介します。
「ごんぎつね」(1986年)
■どんなお話?
兵十が捕ったうなぎをいたずら心で逃してしまったきつねのごんは、しばらくして、兵十のお母さんが死んだことを知ります。「あのうなぎは、お母さんが食べたいと言ったにちがいない」。そう思ったごんは償いをするのですが…。
■ここに注目!
「最初に国語の教科書に取りあげられたのは、なんと62年前! 絵本化された作品では、この1986年に発売された偕成社版が特に人気です。『友情』『悲しみ』『いのち』といった普遍のテーマに加え、黒井健氏の描くやさしい世界観が読者を惹きつけてやまないのでしょう」
「14ひきのあさごはん」(1983年)
■どんなお話?
森で暮らす14匹のねずみの家族。おじいさん、お母さん、おばあさん、子どもたち、お父さんも起きてきて、さあ、朝ごはんの準備をはじめましょう。のいちごを摘んで、どんぐりの粉でパンをつくり、きのこのスープもできました。
■ここに注目!
「鳥の声、風の音が聞こえてくるような自然描写、あふれんばかりの季節感。このシリーズの作品はどれも、文字で語られない物語が細かく絵で描き込まれていて、『絵を読む』という絵本の醍醐味を味わえます」
「となりのせきのますだくん」(1991年)
■どんなお話?
小学生のみほちゃんは、学校に行きたくありません。だって、となりの席のますだくんが意地悪するから…。みほちゃんの目には、なにかとちょっかいを出してくるますだくんが、恐ろしい怪獣に見えるのです。
■ここに注目!
「ちょっとしたことで傷ついたり、逆に鈍感だったりする等身大の『自分たち』を描いたこの作品は、今も多くの子どもから支持を得ています。出版当初、『吹き出し』や『コマ割り』などのマンガ的な手法に賛否両論あったようですが、子どもたちの反応は早かった!」
(3)ロングセラー必至! 最新絵本編
2010年代後半前後に出版された最新絵本の中で、今後ロングセラーになりそうな作品を2つ紹介します。
「そらの100かいだてのいえ」(2017年)
■どんなお話?
雪の日に食べ物を探していて、ひまわりのたねを見つけたシジュウカラのツピくん。そのたねを育てて、たくさんのたねをろうと考えたツピくんですが、辺りは一面の雪景色です。困っていると「くものなかへいってごらん」と不思議な声が聞こえてきました。
■ここに注目!
「夢いっぱいの『100かいだて』シリーズ最新刊。本を90度回転させてページを手前にめくり、見開きを縦に読む構成が独特です。見開きの場面には細かいストーリーがちりばめられていて、それらを『みつけだす』楽しさが子どもたちを飽きさせません」
「きょうはそらにまるいつき」(2016年)
■どんなお話?
乳母車の中の赤ちゃん、バレエの練習から帰る女の子、店じまいのカーテンを閉めた親子、公園の猫たち、くまの親子、海のクジラ…。それぞれの暮らしの中に、やさしい月の光が静かに降り注ぎます。「きょうは そらに まるいつき」
■ここに注目!
「荒井良二氏の描く月は、実に温かく見るものの胸に迫ります。とぎすまされた言葉、無国籍的な風景。『生きとし生けるものすべては同じ月をみている』という、大きな視点に立たせてくれる一冊でもあります」
絵本選びのポイントは?
新刊だけでも毎年2000〜3000タイトルの絵本が出版される中で、子どもにぴったりな1冊を見つけるのは大変です。そこで、絵本選びのポイントを伺いました!
ポイント1:ロングセラー絵本
「長年に渡り出版され続けている絵本には、『読ませる』だけの力強さや魅力がそなわっています。絵も魅力的で、作品の中で登場人物たちがいきいきと息づいているのがわかります。『ロングセラー』は、信頼できる指標のひとつといえるでしょう」
ポイント2:子どもの心を動かす絵本
「いくら『名作』と呼ばれる絵本でも、面白いかどうかは子どもそれぞれ。ぜひ、いろいろな絵本を手に取って読み比べてみてください。『これが好き!』と言って繰り返し読みたがる絵本に出会えるはずです」
ポイント3:豊かな「体験」となる絵本
「絵本の世界で子どもたちは、知っていることや知らないこと、楽しさや怖さを、五感をフル稼働させて体験し、味わいつくします。ダイナミックな自然を感じる写真絵本、外国の文化をいきいき描写した絵本、さまざまな価値観・多様性をテーマにした絵本など、親子でたくさんの絵本を読み、広い世界をともに体験してください」
いかがでしたでしょうか。東條さんは、「子どもにとって『絵本』は、大人の『読書』より、もっと深くて豊かな、実感の伴う『体験』そのもの」だと言います。パパママも童心に返り、ともに絵本を「体験」すれば、より親子の絆も強まるはずです!
お話を聞いたのは…
東條 知美さん
小学校司書として勤務するかたわら、絵本コーディネーターとしても活動。「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を」をモットーに、講演・イベント・執筆を通じて「毎日をちょっと豊かにする絵本」の提案を行っている。「絵本の100年と未来研究会」を主宰するほか、ビジネス研修、子育て支援、男女共同参画事業関連の自治体講演など活躍の場は多岐に渡る。
絵本の100年と未来研究会ホームページ
ブログ「僕らの絵本」
ライター紹介
菊地 貴広
編集プロダクション・しろくま事務所(http://whitebear74.jimdo.com)代表。2014年に出版社から独立し、ファッション、グルメ、ビール、猫、タレント本など幅広く活動。2015年11月に男子が誕生し、息子に夢中。その成長を見るたびにフルフルと感涙する日々。
※2018年6月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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