睡眠不足は学力低下の原因に!改善には大人の習慣がポイント

子どもの成長にとって、健やかな睡眠は欠かせません。良質な睡眠をとるための方法はさまざまに紹介されていますが、今回は、寝室の照明が睡眠に与える影響や睡眠不足について専門家に詳しく聞いてみました。

話を聞くと、夜の照明と睡眠の間には、いろいろ深い関係性があるようです。また、イライラや衝動性の高まり、学力低下や肥満など、睡眠不足が原因でおこりやすい弊害についても紹介します!

睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌を抑える夜の光

夜に光を浴びると、自然な眠りを誘う「メラトニン」の分泌が抑えられてしまう

今回お話を聞いたのは、「東京ベイ・浦安市川医療センター」の管理者であり、「睡眠外来」の担当医でもある神山潤先生。照明に限らず、「光」は睡眠に大きく影響する要素の一つだと言います。

人間は誰しも、脳の中にある『生体時計』によって1日のリズムをつくり出しています。地球の1日は24時間ですが、生体時計の1日は少し長く、平均すると24時間10分。このズレを修正しているのが『朝の光』です

「朝の光を浴びると、生体時計の周期が短くなります。つまり、24時間より少し長いズレを毎日修正してくれるのです」

ちなみに、生体時計を整えるには「朝の食事」も重要なのだとか。朝食は英語で「breakfast」。「fast(絶食)」を「break(打ち破る)」ものという意味で、睡眠(=絶食)の後の最初の食事が、生体時計のズレを正すことがわかっているといいます。

「一方で、夜に光を浴びると、生体時計の周期が長くなります。もともとのズレがさらに長くなり、ちょうど時差ボケのような状態になってしまうのです。また、夜に光を浴びることで『メラトニン』という自然な眠りを誘うホルモンの分泌を抑えてしまいます

メラトニンとは「睡眠ホルモン」とも呼ばれるほど、睡眠に大きくかかわるホルモンです。朝目覚めてから14時間〜16時間後に脳内でつくりだされ、幼児期に最も多く分泌されるといいます。また、「抗酸化作用によって細胞の新陳代謝を促す」「抗がん作用を持つ」など、病気予防や老化防止への効果も期待されています。

人間の脳では、朝の光を浴びるとメラトニンの分泌が止まり、夜暗くなると再び分泌されることが報告されています。ところが、夜になっても照明などで明るい状態にいると、メラトニンの分泌量が大幅に減ってしまいます」

最近のデータでは、月明かり程度の光でもメラトニンの分泌が抑制されてしまうことがわかっているのだとか。やはり、夜は真っ暗にして眠った方がよいのでしょうか?

「就寝時には、照明を一切使わない方がいいという考え方もありますが、人はメラトニンを出すためだけに眠るのではありません。安全の確認も必要ですし、暗闇を怖がるお子さんもいるでしょう。実際、太古の昔には、人類は月明かりや焚火の明りのもとで眠っていたはずです。豆電球程度の明りもダメ、とは申しません。真っ暗な中で寝かせる必要はないでしょうと私は考えています」

なお、液晶パネルなどに含まれることが多い「ブルーライト」には、メラトニンの発生を特に強く抑え、目を覚まさせる働きがあるそう。寝る前にテレビやスマートフォンを見せるのは控え、寝室にはおだやかな電球色の間接照明などがいいとのことです。

「睡眠不足」は問題行動・学力低下・肥満などを引き起こす一因に

睡眠不足による居眠りで、学力低下の原因となることも

生体時計が狂い、睡眠不足になると、日常生活にさまざまな支障をきたします。日中に眠くなる、頭がうまく働かないなどの経験は誰にでもあるでしょう。ほかにも、イライラや注意力の散漫、攻撃的行動、衝動性などの問題行動にもつながりやすいそうです。これに関係するのが、脳の「前頭前野」という部分なのだとか。

「前頭前野は、人間らしさや理性、判断力などを担う脳の大切な部分です。睡眠不足になると、この前頭前野が最初にダメージを受け、正常な判断ができなくなってしまいます。感情のコントロールが効かず、不安定になり、さまざまな心身の不調も出てきます」

集中力の散漫から勉強しても効果が出にくく、さらには授業中に居眠りをしてしまい、学力の低下にもつながります。しかも、前頭前野にダメージを受けている脳は、それらが寝不足のせいだと自覚できず、悪循環にはまってしまうのです。これはもちろん、大人にも子どもにも起こる症状です」

さらに、睡眠不足は肥満の原因にもなると言います。

「前頭前野の働きが悪くなると、理性よりも食欲が勝り、つい食べ過ぎてしまいます。また、寝不足の状態では『レプチン』という食欲を抑える体内物質が減り、逆に食欲を高める『グレリン』が増えることでも知られています」

たかが「寝不足」と考えがちですが、慢性的な寝不足は「睡眠不足症候群」という立派な病気であることを知ってほしいと神山先生は言います。

年齢ごとの適切な睡眠時間と「睡眠負債」

心と体にさまざまな悪影響を及ぼす睡眠不足。それを解消するには、それぞれの最適な睡眠時間を知ることが大切とのこと。

「最適な睡眠時間は、人によってかなり差があります。高校生でも毎日11時間以上寝なければ足らない人もいるなど、実は自分が思っている以上に睡眠を必要としていることもよくあるのです」

下記の表は、アメリカの国立睡眠財団による各発達段階における推奨睡眠時間を参考に作成した、年齢ごとに推奨されている睡眠時間を表したものです。黄色は「推奨」、緑色は「おそらく適切」を示しています。

<1歳未満>

<1歳〜5歳>

<6歳〜17歳>

例えば、6歳〜13歳の子どもでは、「推奨」と「おそらく適切」で7時間〜12時間と大きな幅を持つことがわかります。

周囲とは関係なく、自分にとって適切な睡眠時間を把握しましょう。目安としては、午前中にあくびも出ずに活発に活動できていれば、必要な睡眠をとれていると言えます」

もし、睡眠時間を確保できないままでいると、睡眠不足が借金のように膨らんでいきます。これが、最近よく耳にするようになった「睡眠負債」。なかには「平日の睡眠不足を週末に寝て解消する」という人もいますが、実はこれも難しいそうです。

「借金と同じように、『睡眠負債』にも利子がつきます。寝不足しても、別の日に余分に寝れば大丈夫、ということにはなりません」

「実際に、睡眠時間を削る前後の『見落とし率』を調査する実験では、睡眠時間を削った後の数日間に十分寝ても、基準値までは回復しなかったという報告がなされています」

「寝不足の状態が長く続けば、解消するためにより長い時間を要すると覚えておいてください」

やはり大切なのは、日々の適切な睡眠時間の確保だと言えそうです。

「大人の睡眠不足」が子どもに与える影響

OECD(経済協力開発機構)が2014年に発表した報告によれば、世界で1番睡眠時間が短いのが韓国で、日本は2番目だったとか。この「大人の睡眠不足」が、「子どもの睡眠」を短くしている要因の一つだと神山先生は言います。

「3歳〜6歳の子どもの睡眠時間について、世界13の国と地域を対象とした調査でも、日本はインドに次ぐ2番目の短さでした。また、私が小学校の講演などで、自分が寝不足だと思う人と聞くと、みんな得意げに手をあげます」

『寝ないで勉強をする』『寝ないで仕事をする』。こういった『眠らないこと』を美徳とする日本人の風習が、子どもたちの睡眠を阻害する遠因となっているように思えてなりません。子どもは大人の鏡。大人が本気で眠りを大切にしない限り、子どもの眠りも決して改善されないでしょう」

確かに、子どもを早く寝かしつけようとする親が夜更かしをしていれば、子どもは「自分も!」と思ってしまうでしょう。まずはパパママが、今日から「適切な睡眠」に取り組んでみてはいかがでしょうか?

お話を聞いたのは…
神山 潤先生
東京生まれ、東京医科歯科大学医学部医学科卒業。東京ベイ・浦安市川医療センターの管理者であり、睡眠外来の担当医。他にも、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本臨床神経生理学会評議員、日本睡眠学会理事などさまざまな肩書きで活躍中。睡眠、特にレム睡眠を脳機能評価手段の一つとして捉える臨床的な試みに長年取り組み、旭川、ロサンゼルスでは睡眠の基礎的研究にも従事。米国から帰国後、日本の子どもたちの睡眠事情の実態(遅寝遅起き)に衝撃を受け、社会的啓発活動を開始している。
神山潤 オフィシャルWEBサイト
東京ベイ・浦安市川医療センター

ライター紹介
菊地 貴広
編集プロダクション・しろくま事務所(http://whitebear74.jimdo.com)代表。2014年に出版社から独立し、ファッション、グルメ、ビール、猫、タレント本など幅広く活動。2015年11月に男子が誕生し、息子に夢中。その成長を見るたびにフルフルと感涙する日々。

※2018年4月にいこーよで公開された記事の再掲です。

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