子どもはお絵かきが大好きですよね。絵は自由に描かせればいい、という考え方もありますが、ものの形を描く場合、ある程度形になっていたほうが子どももおもしろさを感じられるのかも。ものの形を捉えて正確に描くのは、大人でも意外に難しいものですが、うまくなるにはどうしたらいいのでしょうか?こども美術教室「がじゅく」塾長の大竹敦人先生に伺いました。
主観の入りづらい対象をじっくり観察してみよう
大竹先生によると、ものの形を捉えて描けるようになるのは、早くても5才くらいなんだとか。それより低年齢では、うまく描くことを意識する必要はないとのこと。そして、ものの形や特徴を捉えて上手に描く練習として、実際ものを目の前においてスケッチしてみるのがいいのだそう。スケッチするときのコツや注意点はどういうところでしょうか?
「スケッチが上手な人は観察が得意です。具体的なものを見ながら描き写す行為を『10』という数値に置き換えると、そのうち『2』は作業で、残りの『8』はひたすら観察してほしいんです。でも、そういう練習を経験していないと、大人であっても、『8』描いて『2』見てしまう人が多い。結果的に、イメージや主観で描くことになり、なかなか実物に近づけることができないんです。そこが一番難しいポイントなので、スケッチする時には、子どもの隣に座って目線を見ながら、絵を見ているのか対象を見てるのか、注意しながら声かけしてみて下さい。」
スケッチのコツはとにかく観察することなんですね。では、描くモチーフはどんなものがいいでしょうか?
「主観が入りやすいものはやめたほうがいいですね。キャラクターの人形などは主観の固まりなので向きません。むしろ子どもがあまり興味なかったり身近でないものを選んでみましょう。たとえば、普段目にする機会の少ない珍しい果物・ドリアンや、切り身での形しか知らない生の魚などはモチーフとしておすすめです。『なんだこれ?』と思う気持ちは、じっくりとものを見る観察眼を養います。」
5歳児に観察の指導を行った実例写真
(写真提供:こども美術教室 がじゅく)
主観を取り払ってただ描き写すという行為は意外と難しいものですね。初めのうちは親が「ここはとがってるね」「ここから色が変わるね」など、注目すべきポイントを教えてあげるといいかもしれません。
こうしてスケッチを通してよく観察することを覚えると、実物がなくイメージを元に描くお絵かきの場合でも、ものの形の特徴をしっかり捉えて、上手に描けるようになるのですね。
子どもの絵を積極的に褒めて体験の共有を
子どものお絵かきに、親はどんな関わり方ができますか?
「幼児期というのは基本的に表現することが大好きで、みんな楽しみながらお絵かきをしています。でも、うまく描けないともどかしくなり、年齢とともに苦手意識を持つ子どもも多い。子どもがお絵かきを好きでい続けるためには、親が積極的に褒めてあげるのが一番です。」
「たとえば幼稚園や小学校で絵を描いてきたら、『どうしてこういう風に描いたの?』『どんな気持ちで描いたの?』など、絵を通じてコミュニケーションをとってみましょう。大人から見たら殴り書きのような雑な絵だったとしても、『そういう激しいところが君らしいね』など、何かしらプラスに働く声かけを心がけて。作品の出来不出来だけを見てすべてをはかろうとせず、その制作過程で起こった様々なストーリーを読み取って、楽しくやり取りして下さい。」
どんな絵でも探してあげればきっと褒めポイントが見つかるはず。子どもが描いた絵は部屋の目立つところに貼って、他の家族やお客さんにも堂々と見せてあげるのがいいそうです。お絵かきは、好きになることこそが一番の上達法なんですね。
では、お絵かきが好きでない子にもっと興味を持ってもらうにはどうすればいいのでしょうか?
「ペンや紙を与えておしまいではなく、親が課題を与えて一緒に描く時間を作ってあげて下さい。うまくなくてもいいので、親が楽しんでいれば子どもは真似したくなります。その時、普通にスケッチするのではなく、イメージを膨らませる練習をしてみてもいいですね。たとえばお父さんを描くとして、『お父さんは何色のイメージ?』『お父さんはどんな動き?ゆっくり?早い?』など問いかけて自由に描かせてあげて下さい。初めから顔の形を実物そっくりに描くことにこだわる必要はありません。」
「絵に苦手意識があると、大人になってからも『私にはこういう世界はわからないから』と拒絶して、描くだけじゃなく美術館などでの鑑賞も嫌いになってしまいがちです。絵を描くことはひとつの教養であり、人生を豊かにするとっておきのスパイスにもなりますよ。」
お絵かきは『好きこそものの上手なれ』。だからこそ、ちょっとしたアドバイスや褒め方ひとつで、大きく伸びたり逆に苦手になってしまうのかもしれません。親子で一緒に楽しみながら気づけば上手に描けている、そんな取り組み方を心がけましょう。
お話を聞いたのは…
こども美術教室 がじゅく
2歳から小学生、中学生までを対象に、制作プロセスの重要性に焦点を当て、作品ができあがるまでの思考や実体験を大切にした美術教育を実践。水彩画や工作、デッサンや立体造形などに加え、美術館での鑑賞授業なども取り入れ、美術家として活動しているスタッフによる経験にもとづいた指導が特徴。
こども美術教室「がじゅく」(東京:用賀・聖蹟桜ケ丘・三鷹・目白・武蔵小山・田園調布・豊洲・菊川)
ライター紹介
宇都宮 薫
編集プロダクション勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。雑誌・ウェブメディアなどへの執筆のほか、単行本(ビジネス書・実用書)の編集・構成を手掛ける。得意ジャンルは、出産、育児、健康、おでかけ、芸能、グルメなど。まち歩きとバイクが好き。
この記事を読んでいる人は「やりぬく力」に関するこんな記事も読んでいます
・乳幼児の想像力UPに繋がる「お絵かき」 年齢別の褒め方&造形遊び
・入園前から挑戦できる! プロが教える「お絵描き」がうまくなる方法
・子供が楽しめる「お絵かき」のコツ! 上達する教え方&褒め方も
・【未来へいこーよ】が育むココロのスキル(非認知能力)について
教室でのスケッチ風景
(写真提供:こども美術教室 がじゅく)