文化や習慣が違えば、子育ての常識も変わるもの。そこで、世界の子育て事情を国別にシリーズで紹介していきます。海外ではどんな子育てが行われているのか、実際に現地で暮らすママに実情を明かしてもらいます。
今回は、ネパールの首都・カトマンズ在住で2人の子どもを育てる、うえのともこさんに現地での子育て事情を聞きました! ネパールでは、宗教のお祭りや伝統行事が暮らしのベースになっているそうです。
【学校教育】都市部の親は「超早期教育」を熱望! 格差の広がりも…
カトマンズ市内の公立小学校の授業風景
小学校の新学期は、ネパール公式ビクラム暦の新年にあたる4月半ばからが始まります。満5歳から小学校に入学でき、小学校5年間、中等学校3年間、高等学校2年の計10年制ですが、義務教育制ではありません。学期ごとの試験や進級試験、追試もあり、留年もありえる日本より厳しい環境です。
公立の場合、小学部までの授業料は無償ですが、都市部ではより良い教育や環境を求めて、私立校に進学させる傾向があります。地方の生徒が都市部の寄宿舎や一般家庭に住み込んで、お手伝いをしながら通学する勤労生徒もいるほどです。
そのため、全国統一試験の成績をみると、都市と地方の格差が顕著です。また、私立校の多くは英語を教授言語としており、「ネパール語以外の時間はネパール語禁止」になっています。英語力は非常に高いのですが、残念なことにネパール語力の低下が顕在化してきています。
「超早期教育」の背景
ネパールというと、豊かな自然環境で野山を走り回るイメージが強いかもしれません。ですが、都市部では小さな子どもが安全に遊べる整備された公園や施設がほとんどないことと、「学習は早ければ早いほど効果がある」と信じられていることから、2?3歳から小学校入学前のプリスクールに入学させる家庭が多いです。
幼児のうちから歌や踊りのほか、読み書きや計算を習い始める「超早期教育」を希望する親が多く、とても驚かされます。有名校のお受験競争率も高く、教育熱は相当なものです。
【労働環境】休みは多くてもバカンスに行ける家庭は少数
カトマンズ王宮広場の様子
政府が定める1カ月あたりの最低賃金は、これまで9000ルピー台でしたが、2018年8月に大幅アップして、ようやく13,450ルピー(約15,000円)を超えました。しかしながらインフレ率が高く、子育て世代が満足に生活するには到底不十分な額です。
産休・育休について
ネパールの労働基準法では、産休は52日と定められています。産休中でも、給与は満額で支給されます。独自の指針や予算がないネパール政府に協力し、児童福祉や保健衛生指導を担うユニセフは、乳児の発育や免疫を高めるため「母乳育児」を推奨しており、産休を6カ月に延長することを国に提案しています。職場によって条件や待遇は異なりますが、在宅、ハーフタイム制や子連れ出勤に寛大な職場もあります。
祝祭日と長期休暇が多い
土曜が唯一の休日ですが、ネパール内務省が定める祝祭日が89日もあり、そのうち地域的、女性のみの祝日が22日あります。それにあわせた学校の長期休暇が、モンスーン期、秋の大祭、冬休み、学年修了から新学年までの暑い季節とあり、それぞれ2週間前後の休暇になります。会社や役所もカレンダー通りに休みとなります。
ですが、バカンスに長期旅行をするような家庭はまだ少なく、日帰りでピクニックに出かけたり、寺院へ参拝に行くことが一種のレジャーとなっています。共働き家庭には、学校の科目にない音楽、スポーツ、アートなどの活動をする少人数制の短期間で宿泊のない日帰りキャンプも人気を集めています。
【医療】家計の大きな負担になる医療費
ネパールには公的医療保険制度がありません。大家族で家賃や食費を出し合って、出稼ぎなどの仕送りでなんとか暮らしているので、医療にお金がかかるのは家計にとってとても大きな負担です。
厳しい出産事情
ネパールは、南アジアの中でも出産時の死亡率が高い国です。最近の報道で「病院や地方のヘルスポストなど何らかの医療機関での出産が、それ以外の一般家庭などでの出産件数を上回り、妊産婦と胎児の死亡率が減少した」とありましたが、先進医療を受けられる首都のカトマンズでも、度々身近に産科の事故を耳にします。そういった意味では、出産はまさに「命懸け」であると思わされます。
山岳地帯の様子
政府の産科病院での出産費用は無料、または最小限で済みますが、出産を含む妊産婦、乳幼児の医療費、入院費は基本的に自己負担です。山岳地帯や遠隔地で受診できる機関がなく、地域で十分なケアを受けられない妊婦を医療機関での安全な出産に導くため、妊婦健診時の補助金や退院時にわずかばかりですが交通費の支給が受けられます。
妊婦検診では、妊娠後期で月1になっても超音波や触診なども毎回行わないため、費用に幅がありますが、一般の病院の場合で500円から1,500円くらいです。また、出産時は正常分娩で20,000ルピー(約20,000円)、帝王切開で40,000ルピー(約40,000円)くらいです。これは一般庶民にとってはとても高額です。
避妊治療について
農村の貧困問題と都市部の教育費の高さから、少子化傾向にあります。多産で生活苦に陥ったり、孤児となってしまうようなことがないよう、妊娠は2年以上の間隔にするなど、家族計画の指導もされ、男性のパイプカット手術は補助金で無料、女性の避妊注射も無料で行われています。
予防接種について
政府が推奨する予防接種スケジュールがあり、誕生から6歳まで、全ての予防接種が無料で受けられます。また分娩時、手術器具類などからの破傷風感染を避けるため、妊婦の破傷風予防接種があるのが日本と異なるところです。
【育児】育児は親族一丸で
ネパールは決して子育ての環境や制度が整っているとは言えませんが、おおらかな国民性で誰もが子どもに優しく、親きょうだいや親戚が自分の子どものようにかわいがって面倒を見てくれます。大家族の家庭が多いので、同居家族や年長のきょうだい、親族が助け合って育児をしています。きょうだい仲がよく、子ども好きで面倒見がよいのはこういうところからきているようですね。
産後ケア&赤ちゃんファーストの母乳育児
退院後の産褥婦と赤ちゃんは大切にされ、家族や親戚でお世話します。産後は母子ともに身体と頭を冷やさないよう、帽子を被ってベッドの上で過ごし、上げ膳据え膳で養生します。滋養をつけるヤギの足のスープや、母乳の出を良くする香辛料とされるセリ科のアジュワン種子を入れたお米のスープを食べます。ネパールには「薬食同源」の思想があり、香辛料の使い方の知恵が生かされます。
また、先進国では公共の場で母乳を与えることの是非が問われることもありますが、ネパールでは全く問題になりません。民族衣装のショールなどで胸元を覆い隠すことができますし、隠さない肝っ玉母ちゃんも多いです。バスの車内でも住宅の軒先でも、当たり前のように授乳が行われています。「赤ちゃんファースト」で、子どもの要求に応じていつでもどこでも与えられます。
免疫力を高めるベビーケア
軒先で赤ちゃんにベビーマッサージをするお母さん
赤ちゃんの沐浴の頻度は少なめです。その代わりに、日光浴と温めたマスタードオイルのマッサージを1日数回行います。頭の泉門からオイルを垂らし、腕や足を伸ばしたり刺激を与えたりしながら、耳の穴やおへそ、爪先に至るまで全身くまなくオイルを擦り込みます。赤ちゃんの免疫力が高まり、皮膚が丈夫になって寝つきもよくなります。
いろいろな御守り
日本にはない文化として、かわいらしいものへの妬みや邪悪なものから守るために、男女問わず目の周りにアイラインを引いています。生後間もなくから3歳頃まで、わざと醜く見せるため顔に黒い点を描くという習慣があります。また魂が逃げていかないように男の子には、お腹に綿の守り紐を巻くこともあります。
【伝統的風習と宗教】日々の生活を彩る年中行事
「クリシュナ神聖誕祭」ゆりかごを揺らすと男の子を授かるといわれている
長い間ヒンドゥー教を国家としていたことから、ヒンドゥー教を信仰している人が多いです。暦上でもヒンドゥー教にまつわる祭礼がたくさんあります。ヒンドゥー教の偉大な神様であるシヴァ神やクリシュナ神などのお誕生日も祝日になっています。
たとえば、女神ドュルガの勝利を祝う秋の大祭「ダサイン」は、出身地へ帰省し、親戚縁者が集い、ご馳走を囲んで、年長者からお年玉がもらえ、日本のお正月のような雰囲気のお祭りです。凧あげや竹の支柱と縄でこしらえたブランコ遊びをします。
また、富と財の女神ラクシュミを招き入れる光の祭り「ティハール」では、家にオイルランプや電飾を飾り、「ランゴーリー」という吉祥文様を床に描きます。子どもたちは、家々を巡り歌や踊りを披露しておひねりを楽しみにしています。
子どもの成長を願う伝統的な通過儀礼
伝統衣装に身を包み果物との擬似結婚式に参加する少女たち
日本のお食い初め同様に、生後5?6カ月頃「パス二」という「初ご飯を食べる日」があります。赤ちゃんに赤い服を着せ、たくさんのごちそうをお膳に並べ、食べ物に困ることがないよう、無事の成長を祈って食べ物を口に運びます。盛大にパーティーを開いてお祝いをする家庭も増えています。その後、離乳期は数種類の穀物やナッツを粉末にした「リト」をお湯で溶いて食べさせます。
ほかにも、民族によって男の子の剃髪式や、女の子の伝統衣装を身に付ける儀礼、果物や太陽との擬似結婚式などもあり、伝統に従って数日がかりで行われるときもあります。
暦上の風習と伝統食
ビクラム暦にも、日本同様にさまざまな節句があります。
雨季入りの田植え祭りには乾飯にヨーグルトをかけたものを食べ、兄弟姉妹の絆を祝福する「ラクシャバンダン」には発芽させた豆類を煮込んだスープ、満月には糖蜜の餡を新米の生地で包んで蒸したお団子、大寒の日には芋類や胡麻飴菓子というように、節句に合わせた特別な食べ物を食べて過ごします。
節句のための食材は、数日前から市場で一斉に売り出され、季節の移り変わりが感じられます。このように、毎年家族で年中行事を執り行うことで、親子やきょうだいの絆がますます深まり、信仰厚く、健康で心豊かに過ごすことができるように思います。
ライター紹介
うえの ともこ
倉敷市出身。ネパール・カトマンズ在住ライター。幼稚園から小学部までのシュタイナー学校に通った16歳と10歳の男児の母。旅行とヒマラヤトレッキングの会社でコーディネート、企画、雑務までを担当。日課はヨガ。
※こちらは2018年9月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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