小学校で誰もが経験する跳び箱。苦手な子も多く、自宅などでうまく跳べるきっかけを作りたいと思う親も多いはず。
そこで今回は、体操教室「HEROスポーツクラブ」の島田裕代さんに、跳び方のコツや苦手な理由、自宅で簡単にできる練習法などを教えていただきました。
跳び箱が跳べる子と苦手な子、違いはどこにある?
高い段でも軽々と跳べる子もいれば、低い段でもなかなか跳べない子もいます。その差はどこにあるのでしょうか?
「まず、身体能力の差は関係ありません。大切なのは、跳び箱を跳ぶのに必要な動きを体験しているかどうか。踏切板を例にすれば、足を揃えてジャンプをした体験があるかないかが、大きな差として現れます」
「そういう意味では、幼少期にさまざまなタイプの動きをする運動に触れることがとても大切です」
テクニックの面でも差は出るのでしょうか?
「手をつく位置や踏切などの技術も大きな差が出ます。ポイント大きく分けて3つあります」
(1)助走から踏切までの動きがきちんとできているか
(2)手前に手を着くことができているか
(3)体重を前に移動できているか
「この3点は特に大切です。もちろん『走る』『跳ぶ』などの基礎運動能力は必要ですが、たとえ身体能力が高くてもこれらを正確に行えないと、上手に跳ぶことはできません」
うまく跳べるようになるコツは?
身体能力の差に関係ないのであれば、誰でもうまく跳べるようになれるということですね! 具体的には何をすればよいのでしょうか。
心理面:成功体験&イメージトレーニング
「心理面と身体面の両方を鍛えましょう。実は、跳び箱が跳べない原因のほとんどは心理面です。恐怖心があると思い切り踏み切れません。恐怖心があると跳躍が小さくなり、跳び箱に座ったりお尻をぶつけたりして、さらなる恐怖心につながります。そのループが生まれ、うまく跳べない原因になります」
「一流の体操選手でも、跳ぶ際に迷いがあると失敗します。勇気と決断が必須の跳び箱では、まず恐怖心や迷いの克服が必要です」
恐怖心や迷いを取り除くためには、どんな方法があるのでしょうか。
「成功体験とイメージトレーニングがとても有効です。まず、成功体験を得るために『跳び越せる!』という感覚を味わいます。楽しい遊びの雰囲気の中で馬跳びをしたり、低い跳び箱を跳んでみたりしましょう」
「もちろん、上達してからもこの方法は有効です。失敗して恐怖心が出た場合には、無理に同じ高さを何度もチャレンジするよりも、低い跳び箱や馬跳びに戻して自信を取り戻す方が上達の近道です」
「次に、イメージトレーニングです。体操競技は真似ることがスタートになるので、まずは跳び箱を跳んでいるお手本を見ることがとても大切です。そのあとで自分が跳んでいるイメージを作ります。ぬいぐるみなどを使って楽しみながら跳んでいるイメージを作ることも有効です」
「ぬいぐるみの大きさに適した高さの跳び箱をダンボールなどで用意して、一連の動きをゆっくり行うことで、ジャンプする位置や手をつく位置がわかり、目指す動きをイメージできます。保護者がやって見せても、子供自身でやってもOKです」
身体面:跳び箱に必要な3つの力を養う
「身体面では、おもに『腕の力』『柔軟性』『身体を操る力と感覚』の3つの力をつけるトレーニングをしましょう」
「1つ目は腕の力。腕だけで自分の身体を支える必要があります。四つん這いから足を持ってもらう体勢になって、手だけで進む『手押し車』は、楽しみながら腕の力を鍛えられます」
「2つ目は柔軟性。左右にしっかり足を開かないと、跳び箱に引っかかって頭から落下してしまうこともあります。ですから、日頃から左右に開脚するストレッチを行いましょう」
「ポイントは上体を前に倒すときに膝を曲げないこと。また、膝が一緒に前に倒れず、天井に向いたまま前屈できるように頑張ってみてください。そうすることで、股関節の可動域がさらに広がります」
「3つ目は身体を操る力と感覚です。跳び箱では手をつくときにお尻の位置が上がりますが、それに恐怖や不安を感じて、思い切り跳べないことがあります。身体をコントロールする筋肉と感覚を養うためには、壁を使った倒立が効果的です。壁に背を向けて足をかけ、片足ずつ徐々に上げていって頭よりお尻の位置を高くします。お腹を壁につけるのが最終目標です」
今日からすぐできる! 自宅でできる3ステップ練習法
基本的なことが身に付いたら、次はいよいよ跳ぶ練習です。といっても、普通は家に跳び箱がないので、別のものを使って練習できる方法を教えてもらいました。
ステップ1:助走とジャンプの練習
「まずは、助走から両足を揃えて踏み切る動きまでをリズムよくスムーズに行う練習をしましょう。この運動がおろそかだと、きちんと踏み切らずに助走の勢いだけで跳ぶことになります。そうすると、段数が上がると跳べなくなるので、とても大切なステップです」
「助走はスピードではなく、リズムが重要です。体勢が前のめりにならないように気をつけます」
「目印をめがけて助走し、目印上で足をグーの形にしてジャンプします。なぜ足をグーにするかというと『ジャンプした力を分散させない感覚をつかむため』です」
「上から物を落としたとき、固いものを落とすと跳ね返りますが、柔らかいものを落とすと跳ね返りませんよね。跳び箱を跳ぶときは、足をしっかり閉じて、全身を1本の棒にして踏み切るのが理想です。そうすることでジャンプの力を最大限に使えます。この一連の動きをスムーズにできるように練習をします」
足をうまくグーにできない場合はどうしたらよいでしょうか?
「助走のスピードが速すぎてタイミングがとれていない場合や、前のめりになりすぎてきちんと足を動かせていない場合があります。縄跳びでかけ足とびと両足とびランダムに行う練習法や『ケンケンパ』などの遊びで、片足蹴りから両足をそろえるリズム感を養いましょう」
「足の指でジャンケンしたり、足の指でタオルをたぐり寄せる『タオルギャザー』という運動も効果的です。こちらは、扁平足予防や大人の運動不足解消にもおすすめです」
ステップ2:自分の体を支える練習
「次に、自分の体を手で支え、体重を前方に移動する練習をします」
「足をグーの形にして、前に手をつきます」
「ジャンプをして、前についた手よりもさらに前に足を持っていきます。この運動を繰り返しながら前に進むことで、腕の力を養いつつ体重移動のコツを体得できます」
ステップ3:ジャンプで降りる練習
「最後に、まわりに気をつけて少し高いところからジャンプで降りる練習をします。写真は、実際の跳び箱とマットですが、家庭にある台や布団などでも代用可能です」
「ある程度の高さから着地ができるという感覚を養うことで、跳び箱の高さと手をついた後の恐怖感をなくしていきます」
「最初は、着地したときに手をついてしまうこともありますが、次第に膝を少し曲げて衝撃を吸収できる姿勢が身に付いていきます」
跳び箱をうまく跳ぶためには、いくつかの動きを身につけると良さそうですね。スモールステップで練習していけば、うまく習得できそうです。ぜひ今日から始めてみてはいかがでしょうか。
お話を聞いたのは…
HEROスポーツクラブ 島田 裕代さん
2歳から大人まで通える体操&アクロバット教室。代表の島田裕代(しまだひろよ)さんは日本体育大学体操競技部の元体操選手で、アクロバットパフォーマー。10年ほどの指導歴を持ち、一人ひとりの才能を引き出して個性を伸ばす体操指導を全国各地で行っている。教室では、モンスターボックス(跳び箱)18段の女子世界記録を持つ松島由季さんも指導する。
HEROスポーツクラブ公式サイト
HEROスポーツクラブインスタグラム
ライター紹介
高柳 涼子
雑誌編集部勤務を経てフリーランスに。ライティングと校正を中心に、ときどき編集もやる3児の母です。これまでに関わった分野は、求人、進学、ウェディング、アート、手芸、田舎暮らし、食育、仏教、料理など。
※2019年4月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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