「手を洗ったの?」と聞くと、泥だらけの手で「洗ったよ」と答えるなど、子どもはすぐにバレるウソをつくことがよくありますよね。他愛もないウソとはいえ、親としては平気でウソをつく子に育ってしまわないか、ちょっぴり心配。そこで、ウソをつく子どもの心理やついたときの対処法について専門家に聞きました。
子どもがウソをつく理由は大きく3つ
そもそも、子どもはどうしてウソを平気でついてしまうのでしょうか。
「子どもがウソをついてしまう理由は大きく3つあると思います。それは、『叱られたくない(罰を受けたくない)』『バレないと思っている』『ネガティブな感情を秘密にしたい(見栄を張りたい)』です。」
こう答えてくれたのは、谷町こどもセンター(大阪市)で所長を務める、臨床心理士の日下紀子さん。
そこで子どもがウソをつく3つの理由について、詳しく教えてもらいました。
理由1:叱られたくない(罰を受けたくない)
「手を洗わずママに叱られた経験があると、『手を洗った?』と聞かれて、とっさに『洗ったよ』と答えてしまうことがあります。『洗ったって言わないとまた叱られる!』と思い、叱られないためにウソをついてごまかそうとするのですね。」
こうしたウソは、3歳頃から見られるケースが多いそう。
「3歳くらいになると、子どもは『良いこと』『悪いこと』の区別がつくようになってきます。同時に、悪いことをしたら叱られるということも経験から学んでいきます。先ほどの例で言うと、手を洗わなければいけないことは、子どももわかっている。だからこそ、『手を洗っていない=悪いこと』『悪いことをしたら叱られる』と想像ができるようになり、ウソをつくようになるのです。」
つまり、叱られたくないからつくウソは、悪いことをしたらどうなるかがわかってきた証でもあるということ。先を見通す力など、子どもの知的能力がぐんぐん育ってきている証拠でもあるのですね。
理由2:バレないと思っている
「3歳くらいになると、善悪の区別がつくと同時に、周りを観察する能力、つまり社会性が育ってきます。すると、親がちょっとしたウソをつくのを見て、『自分もパパやママのようにウソをついても、バレないかも』と思ってしまうのです。」
例えば、ダイエット宣言をしたママが、こっそりおやつを食べている…。そんな姿も子どもからすれば「ママがウソをついた」と思ってしまう可能性があります。子どもがウソを真似しないように、パパ・ママも行動に気をつけたほうが良さそうです。
理由3:ネガティブな感情を秘密にしたい(見栄を張りたい)
「4歳くらいになると、子どもは他人と自分を比較できるようになってきます。すると、『友達に負けたくない』という感情が芽生え、うまくできなかったことを秘密にしようとするのです。」
友達はできたのに自分はできなかった、といったことがあると、子どもの心にも大人と同じように「悔しい」「みじめ」などの気持ちが生まれてくるもの。こうしたネガティブな感情は、行き場のない不安感を伴います。そんな不安に耐えるために、できなかったことを「できた」と言ってみたり、「僕だって、それできるよ」と見栄を張ったりするのだそうです。
「とはいえ、見栄を張るのは、何がすごいことなのかがわかるようになってきて、こうなりたい、ああなりたいという目標を持てるようになった成長の証でもあるんです。」
子どものウソは、社会性や知的能力、心の成長を表すバロメーターでもあるのですね。特に、子どものつくウソの中でも見逃してあげてほしいものがあるそう。それが、「空想を広げて楽しんでいる」場合です。
「空想して楽しむこと」と「ウソをつくこと」は違う
「例えば、『僕、ホームランをたくさん打てるから、大きくなったらプロ野球選手になるんだ!』『パパも野球がすごく上手なんだよ!』などと話しているけれど、実際は本人もパパも野球があまり上手ではないといった場合です。」
「こうしたケースは、見栄を張ってウソをついているようにも見えますが、実際はただ想像を膨らませて楽しんでいるだけ。パパやママがまわりの大人に『本当はそんなことないんですけどね』などと耳打ちするなど、フォローしてあげれば十分だと思います。」
日下さんによると、ウソというよりも空想なので本人を叱る必要はなく、4歳〜5歳くらいになり現実がわかってくると、自然とこうしたことは言わなくなってくるそうです。
「叱る」のではなく「伝える」ことが大事
楽しい空想ではなく、明らかにウソをついている場合にも、あまり子どもを叱りすぎるのは良くないそうです。
「ウソをついたときにあまり叱りすぎると、叱られないようにますますウソをつくようになります。ですから、基本的には叱るよりも『ウソをついちゃダメだよ』『ウソをつかれると、ママは悲しい気持ちになるよ』など、事実のみを伝えるようにしましょう。」
「なかでも、見栄を張ってウソをついている場合は、叱られると余計みじめな気持ちになるので、『できると思ったんだよね』など、子どもの気持ちを受け止めてあげることが大事です。親が気持ちをわかってくれれば子どもの心が安定してくるので、失敗やできないことも自然と自分で認められるようになっていくもの。すると、こうしたウソもつかなくなっていきます。」
ウソの理由に目を向けて
さらに、子どもが不要なウソをつかなくなるためにも、「ウソをついた子どもの気持ちに目を向けることが大切」だと言います。
「同じ悪いことを隠すためについたウソでも、人を傷つけるウソもあれば、他人をかばってついたウソもあります。子どもなりに理由があるので、まずは、『どうしてウソをついちゃったの?』と聞き、『そう思ったからウソをついたんだね』といったん気持ちを受け止めてあげてほしいんです。」
その上で、人を傷つけるウソの場合は「そういうウソをつくと、○○ちゃんが嫌な気持ちになるんだよ」と伝えます。そして、「だから、ごめんなさいって言おうね」など、謝り方を教えてあげましょう。
逆に、兄弟やお友達をかばってウソをついた場合なら、「そんなふうに思ってあげられたのは優しいと思うよ。でも、悪いことをしたらちゃんと謝れるようになることが○○ちゃんにとっても大切だから、ウソは言わないようにしようね」と教えてあげればいいそうです。
「ただし、『怒らないから言ってみなさい』と言っておいて、結局怒る…というのはダメですよ(笑)。まずは『よく言ってくれたね』と、素直に話したことを認めてあげてくださいね。」
ウソをついたということだけに目を向けず、ちゃんと理由を聞いて、気持ちを受け止める心の余裕が、子どものウソを自然となくす一番の方法なのですね。
★この記事のポイント
-
- 子どもがウソをつく理由は大きく3つ。
- 理由1:叱られたくない(罰を受けたくない)
- 理由2:バレないと思っている
- 理由3:ネガティブな感情を秘密にしたい(見栄を張りたい)
- 「空想を広げて楽しんでいる」場合は叱らず見守る。
- 叱らずにウソをついた理由に目を向け、子どもの気持ちを受け止めよう。
お話を聞いたのは…
日下 紀子さん
臨床心理士。教育学博士。精神科の診療所で臨床心理士として活躍後、親子のカウンセリングを行う「谷町こどもセンター」(大阪市)へ入所。現在は所長として、12名の臨床心理士と共に、日々親子の成長をサポートしている。
谷町こどもセンター
ライター紹介
近藤 浩己
1974年生まれ。ライターズオフィス「おふぃす・ともとも」のライター。トラック運転手からネイルアーティストまでさまざまな職を経験。しかし幼い頃から夢だった「書くことを仕事にしたい!」という思いが捨てきれずライターに。美容・ファッション系ライティングが得意だが、野球と柔道も好き。一児の母。
※2017年3月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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