元ショートトラックスピードスケート日本代表・勅使川原郁恵さんが「子どもたちを健康にする」事業のために挑戦したこと

健康になるために「本物」と出会えるようにした

勅使河原郁恵さん

未来:挑戦といえば、引退後は資格取得にも並々ならぬ挑戦をしていますね。「健康ウオーキング指導士」をはじめ「ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスター」や「温泉ソムリエ」などたくさんの資格を取っているところに驚きました。

私は現在、22の資格を持っています。でもバラバラに資格を取ってるのではなくて、ちゃんと「健康」という軸があるんですよ。健康になるためには「運動・食・休養」がすごく密接な関係があるので、その三つに関係する資格なんです。これだけの資格を取ったので、健康に関してでしたら私にお任せください。

未来:これだけたくさんの健康に関する資格を取った理由は?

もともとスケート選手で成績を残すための体作りとして、食事や休養、運動量を適切にすることは自分の中でやっていた経験があるので、それを武器にしながらみなさんに「健康に関する正確で本物の情報を伝えられるように」と取得していったら、いつの間にかこんなに増えていったんです。

未来:いろいろと資格を取っていったことが「一般社団法人ナチュラルボディバランス協会(なちゅぼ)」の設立につながっていったのでしょうか?

それもありますね。もともと「みなさんを健康にしたいな」という想いがあって。食事のこともお話したいし、運動のこともお話したいし、休養も大事だから伝えたいし…と思っての資格だったんです。それで「大人を健康に」というのも、もちろんですけど、やはり健康は生まれてから幼少期の環境がとても大事だなと思っていて。「なちゅぼ」では、人が健康になるための一番大事な時期である乳幼児期において、子どもたちを健康にするための活動をしています。

未来:「未来へいこーよ」も、同じ世代に向けて記事やイベントを行っていますが、乳幼児期から小学校低学年くらいまでというのは大事な時期ですよね。

そうです。健康のために必要な情報を、どれだけ正確に与えてあげられるか。その子が大人になってからも健康でいられるがか、そこで決まるとも思っています。もちろん子どもだけでなく親も一緒に学べて、子どもの成長をサポートして、一緒にコミュニケーションを取りながら、いろんなことも学べるのが理想ですね。運動も大事ですが、食べるものも大事。さらに自然遊びも大事だし、アカデミーも大事。「だったらすべて学べるものを作ろう」と。

未来:壮大な話になってきましたね(笑)。普通だと「運動」や「食事」だけで見ても奥深いのに、すべて実現させるのですか!

やっぱり中途半端はイヤだなと思ったので、すべて学べるように、それも1つのところですべてが学べるようにしたかったんです。そうなれば親もすごく楽ですし。別々のところに通わせていたら、親も大変ですよ。

未来:一緒に参加できるのは、すごくいいですよね。

例えば、今週の日曜日に1日、親子で体験して、すべて解決しましたというのがいいなあと思って、すべてができる環境を整えてあげたいなあと思っています。

未来:「なちゅぼ」の公式サイトには「子どもたちにとって好きを見つけることが人生にとって重要」と書かれていますが、その理由は?

私は「親でもわからない子どもの才能がある」と思っていて。いろいろ体験させてあげないと、好きって見つからないかもしれない。運よく1つの学びで好きが見つかって、それに進むということもあるかもしれないですけど、子どもの可能性って無限にあるので、そこをどれだけ親が子どもに体験させてあげて見つけてあげられるかがすごく大事だと思っています。

だから、「なちゅぼ」の活動も、いろんなカテゴリーがあるんですけど、その中で子どもたちに、すべてを体験させてあげることで、好きがヒットする場所って必ずあると思っていて。だから、その場で好きを見つけてほしいと思っているんですね。

以前「なちゅぼ」で自然体験イベントを開催したときに、いつもは内気でほかの子と一緒に遊べないのに、「なちゅぼ」では全然違って明るくなっている、とその子の親が教えてくれたことがありました。周りの子としゃべったり、葉っぱを私に見せてくれたりして、「うちの子は普段はこんな表情を見せないんですけど」と親が感動して言ってくれたときは、とてもうれしかったですね。その子にとっては、自然の中というのが「好きのひとつ」で大切にすべきコミュニケーションのひとつだなと親自身が感じ取ってくれたのがよかったなと思っています。

未来:大人が子どもの好きを「与える」のではなくて、子どもの好きを「発見する」ということが大事だと思っています。体験の場を提供することが親の役目で、そこで子どもがとにかく自分で発見するのを待つ。多分そういうことが大人の役割なんでしょうね。

そうなんですよ。だから「なちゅぼ」の活動としても、子どもの「好き」を引き出してあげるようにしたいので、固定したことを教えないんですよ。「今日はこの体操をします」みたいな「これができないとダメ」みたいなものではなくて、子どもたちが「やりたい」って楽しいって思ってくれるような、声がけであったりプログラムを構成していくという臨機応変さもすごく大事にしていて。子どもたちがとにかく「なんでも楽しんでいる」という環境を「なちゅぼ」では作ろうとしています。

未来:具体的にはどんなことをしているのですか?

乳幼児期に必要な36の動きというものがあるんですけど、それをいろんな遊びをしていくなかで自然に身についていくようにしています。よく参加したお子さんの親に「うちの子は、前回りできないんですけど、どうすればいいですか?」とあせりながら相談されることもありますが、「なちゅぼ」は昔ながらの体育の授業のようなやり方じゃないんですよ、と。昔ながらのやり方は見直して教えていってあげたいなと思っています。

未来:乳幼児期に必要な36の動きを習得するために、前回りとか逆上がりとか、そういうものを「できること」としてクリアしていくやり方ではないということですね?

昔の体育でよくあった教え方は、子どもがイヤになっちゃうんですよ。例えば前回りが苦手な子は、まずは違う遊びから回転運動を好きになっていくように仕掛けをして、いつの間にかできているみたいな感じにしてあげたほうがいいんですよね。

未来:教え方としても、そうできたら最高ですよね。実際、そういうことをしていこうと思ったのはご自身のどんな経験から?

自分が自然と遊んでいたり親と一緒に挑戦した体験からきています。

未来:このようなトレーニング法はどういう発想から生まれてくるのでしょう?

トップアスリートになるような人たちの特徴として「自分でメニューを生み出す」ことが挙げられます。自分で強くなるためには、どうしたらいいかを考えて生み出していく。イチローさんの食事方法なんか自己流みたいに言われますけれど、みんな人それぞれ型にはまったトレーニングだけじゃなくて、工夫をして試行錯誤して作り上げていって、それが成功したらまた次を見つけます。「常に新しいことに挑戦すること」が、ずっと世界で戦えている一流選手がやっていることなんです。

先生やコーチに言われたことを淡々とやるタイプの選手は、平均までは行くけど飛びぬけなかったり、普通に辞めちゃったりするんです。そういう人たちを結構多く見てきました。私は自分でトレーニングの内容を組み立ててきましたし、陸上選手や走り幅跳びの選手など、スケート選手以外の方とトレーニングをしたり、韓国やイタリアなど海外の人たちのノウハウを取り入れるために自分ひとりでその練習に参加したりもしてきました。いろんなトレーニングのいいところを取り入れることによって、柔軟にいろいろなことにも対応できることを自ら感じていたので、子どもたちに向けてもやりたいなと。

「いろんなことを体験して挑戦する」ことが生きるチカラに

未来:イベントでは、勅使川原さんが講師をやったりもするのでしょうか?

やります。私は子どもがとにかく大好きなんですよね。自分の子は、もちろんですけど、周りの子たちも、かわいくて! 生意気な子もいるけど、それがまたかわいい。子どもたちに運動を含めた「なちゅぼ」での活動を嫌いになって欲しくないので、子どもたちをフォローしたくて実際に私が現場にいるってことが多いです。

未来:「なちゅぼ」のイベントに行けば、勅使川原さんに会ってお話することができる可能性もありそうですね。勅使川原さんにとって生きるチカラというのは、どういうものだと思っていますか?

とにかく「いろんなことを体験して挑戦する」というのが、私の生きるチカラになっているんですよね。私は、スケートを引退してからいろんな難しいことに挑戦しました。スポーツでいえば、現役中にはできなかったトライアスロンやフルマラソンなど、選手がすごく辛そうな表情をするのをみて、どんな気持ちでやってるのか感じ取りたくて「やってみたい!」と(笑)。カヌーやゴルフ、スキー、自転車など、すべて挑戦してみないとわからないと思ったのでやっています。スポーツ以外にもやったことがないこと…それこそ経営にも挑戦したくて起業したというのもあるので、それが生きるチカラにつながっていると思います。あとは、子どもですね。子どもを育てるというのが自分の中でも生きるチカラになっていると思います。

未来:自分のお子さんを含めて、子どもたちに生きるチカラを育んでもらうために、どういうふうになってほしいでしょうか?

そのために「本物を体験してほしい」なって思っています。今は情報があふれていて「本物ってなんだろう?」ってなってしまうときがありますよね。「なちゅぼ」としては本物の講師を招いて、本物を伝えるということが大事だと思っています。アスリート講師の中には、五輪出場経験を持つアスリートはもちろん、専門の知識のある大学の先生をお迎えしています。食事のときは、その食事のスペシャリストの方を講師に招いて、教育系なら例えばモンテッソーリ教育、シュタイナー教育など、日本の中で第一人者と言われる方に教えてもらえる場を提供したいなと思っています。

見様見真似ではなくて教育自体の歴史を学んで、根本的なところもちゃんとわかったうえで教えたいなと思っています。「なちゅぼ」では「なんで運動遊びが大事なの?」を聞かれたらちゃんと教えてあげるということができる講師ばかりです。本物をみなさんに味わっていただいて、そこで生きるチカラを学んでほしいんです。

未来:実際に、大人である私たちも職人さんやプロで活躍されている方に1回会うと感動するし、生き方がちょっと変わっていく気がします。子どもの頃から本物と触れ合うのは、体験としてすごくいいものになりますね。

「勅使川原おばあちゃんのところに行けばなんでもわかるよ」となるのが夢です

勅使河原郁恵さん

未来:子どもの頃の夢「日本一のスケート選手」と「五輪に出場する」を両方叶えた勅使川原さんです。今現在の夢をあげるとしたら?

私自身「ずっと健康でいたい」というのは、元々思っていたものなんです。健康じゃないと何もできないですよね。その健康になるための情報発信をやっぱりしたいなと。「なちゅぼ」の活動もその一環なんですけど「健康になるための発信をずっとして行きたい」というのが夢です。そのためには、子どもや親子がいつでも「なちゅぼのお家」のような場所に来て、自分はおばあちゃんになってもそこにいて、おばあちゃんの知恵をそこで教えるみたいな(笑)。そんな人になりたいです。「勅使川原おばあちゃんのとこに行けば、何でも教えてくれる」ような。ちっちゃな家というか。

未来:それは素晴らしい夢ですね。ぜひ実現されることを願っています!

勅使川原さんは現役を引退されてからの話もとにかく「パワフル」でした。実際に会うと小柄な方なのですが、いろいろな競技を「つらそうだから」とあえて経験したり、健康に関わる資格をたくさんとって「健康・運動・食事・休息」を「全部大切だから全部できるようにしよう」と思ったりと、思ったことを実現するエネルギーがとてつもないです。「なちゅぼのお家」で勅使川原おばあちゃんとして活躍される夢も、勅使川原さんなら楽々と実現してしまいそうに感じました。夢をつかむための気持ちと体力を育んだ前編と通して読むと、体力と健康の大事さがわかるインタビューでした(KAZ)

「子どもたちの『好き』が見つかる場所」を作るためのクラウドファンディングも実施中(2021年12月25日まで)

一般社団法人ナチュラルボディバランス協会

勅使川原郁恵さんが代表理事を務める「一般社団法人ナチュラルボディバランス協会」では、2021年11月18日現在、0〜7歳の乳幼児たちとその親・保護者に向けて、愛着形成をより深める機会の提供と、心と身体、感性を健やかに育むためのアプローチを行う活動の場「星のあそびば」を広めるためのクラウドファンディングを実施中。リターンには「星のあそびば参加券」や「なちゅぼおすすめ食材」「勅使川原氏プロデュースタオル」などが用意されています。記事を読んで「なちゅぼ」の活動に興味を持った方はぜひご覧ください。
プロジェクト(支援受付)サイト
一般社団法人ナチュラルボディバランス協会
公式プロフィール(マネジメントサイト スポーツビズ)

この記事を読んでいる人は「やりぬく力」に関するこんな記事も読んでいます
「△△のように生きなさい」元ショートトラックスピードスケート日本代表・勅使川原郁恵さんを育んだ父の言葉
壁にぶつかるから成長できる! レスリング・田南部姉弟の「やりきる力」
「投げ出す子」を「やり抜く子」に育てる50の習慣とは?
子どもの運動神経を伸ばすベストな方法は? 遺伝や工夫も紹介!
【未来へいこーよ】が育むココロのスキル(非認知能力)について

SHARE ON
Facebook
Twitter
6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

RELATED ARTICLEあなたにおすすめの記事

  1. 鈴木あきえさん

    人見知りで自分嫌いだった鈴木あきえさんが変われたワケ【後編】

  2. 子どもを叱る時間が長い親は自己肯定感が低い!? 褒める力の育み方

  3. 子どもの好奇心&自己肯定感が育つ! 自然体験が親子に最適な理由

  4. 【シュタイナー幼稚園】ゆっくりのんびり育む子どもの生きる力~南沢シュタイナー子ども園

  5. 伍魚福 大橋弘樹さま

    おつまみ界の老舗・伍魚福が「商品開発&販売体験」の子ども向け職業体験を実施【いこーよスイッチ企業事例インタビュー】

  6. 発達障がい キャンプ

    子どもとの自然体験でプログラム自体よりも重要なこととは?

  1. SDGsが楽しく学べるすごろく! 子どもだけでなく大人もハマる理由…

    2024.04.18

  2. 自由すぎる研究EXPO2024

    「好き」や「やりたい!」ことを探究するチャンス!「自由すぎる研…

    2024.04.15

  3. 川崎重工

    製造業の魅力を伝えたい!川崎重工が子ども向けに造船のお仕事体験…

    2024.04.08

  4. 古野電気株式会社

    魚群探知機やレーダーで世界をリードする古野電気が「見えないもの…

    2024.04.04

  5. 伍魚福 大橋弘樹さま

    おつまみ界の老舗・伍魚福が「商品開発&販売体験」の子ども向け職…

    2024.03.15

  1. 【季節の絵本連載】春に読みたい絵本

  2. リビング学習成功のカギは環境作りと親のサポート!

  3. 子どもと1月の手仕事 恵方巻にもぴったり 3種の「のり巻き」レシピ

  4. 子どもと4月の手仕事 炊飯器で美味しい! 「中華風おこわ」のレシ…

  5. 春を満喫 子どもと4月の手仕事「タケノコご飯」のレシピとポイント

みらいこSNSをフォロー

子どもの未来を考える子育てサイト「未来へいこーよ」をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む